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受賞作品 感想文部門
「ソルと家族のあたたかな時間」
河ア 優良さん
鳥取市立賀露小学5年
『ソロモンの白いキツネ』(あすなろ書房) |
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「もしかしたら、あれはおまえのお母さんで、おまえとお父さんをここにつれてきてくれたのかもしれないよ。」
ソルと祖母が白いキツネの話しをしている時のこの祖母の言葉を読むと、ぼくの目から涙がこぼれ落ちた。
ソルのさみしさ、父との距離感、その中で出会った不思議な白いキツネとの出来事。ぼくは、知らず知らずにソルの孤独な世界に吸い込まれていたのだ。
ソルはシアトルでの父との孤独な生活の中で、ふるさとに思いを寄せていた。しかし、母を失った悲しみや後悔を心に閉じ込めていた父を、これ以上、悲しませないように、父への愛情と優しさで、ふるさとに帰りたいとは言えなかったのだろう。父も母の死と向き合うことが出来ず、シアトルで懸命に生きていた。お互いに、相手を思うあまり、悲しみの深さがわかるからこそ、父と子、二人の距離が生まれてしまったのかもしれない。
しかし、そんな二人の心を白いキツネとの出会いが変えていく。ソルは父へ自分の思いを伝える勇気を持ち、父も、その思いに応え、ふるさとをたずねる勇気、悲しみと向き合う心に変わっていく。それは、まるで雪国の氷柱が太陽の光に照らされ少しずつ溶けていくようであった。
この穏やかな時間が、親子三人の時間だと気付いたのは、祖母の言葉を読んだ時だった。白いキツネが、お母さん。ソルとキツネの不思議な出会いは、母の深い愛情の物語だったのだ。ぼくは涙がとまらなかった。ソルは始めから気付いていたのかもしれない。
ソルの母は、亡くなってから、ソルと父の生きる姿をどう思い、見ていたのだろうか。きっと悲しみを一人一人が心に抱えて生きることに、母も悲しみ、さみしさを抱いていたにちがいない。心を言葉にすることが難しい二人を助けたのは、言葉を話さないキツネの存在、字を書くことが出来ない祖母の存在だ。父子を思いやるあたたかな心、愛情が二人をゆり動かし、少しずつ言葉を交わし、理解し合っていけたのだと、ぼくは思う。
人は誰しもが、さみしさや辛い経験、心の中にそっと閉まっていることがあると思う。ぼく自身も例外ではなく、孤独を感じる時さえある。しかし、家族や周囲の人と言葉で思いを伝え合う勇気を持ち、理解し合うことで、前に進むことが出来ていると感じる。そして、それだけではなく、そこに互いに思い合う気持ちがなければならないことも強く感じる。
ソルは祖父母に教えてあげることが沢山あり、教わることも沢山あることに気づいて、あたたかな気持ちになり、わくわくしていた。人は、それぞれ苦手なこと、得意なことがある。人の欠点は責めるものではなく、思いを寄せ、助け合い、補い合うことが、人として美しい生きる姿だと感じた。ぼくも、周りにいる人達と互いを尊重し、温かな関係を築けるような生き方をしていきたいと強く感じた。
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