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受賞作品 感想文部門


  入選
江戸っ子ガラスは今日もまた

谷本淳一郎
米子市立箕蚊屋小学校6年


 体が真っ黒な羽で覆われ、黒い目に鋭い爪。ぼくは、ごみ置き場をよくあさっているカラスにいい印象をもっていないまま本を開いた。

 あんなビルばかりの東京に多くのカラスが住んでいたとは、また、ごみ置き場がカラスにとって生きていく上で唯一貴重な食事の場だったなんて、ぼくは知らなかった。そんなカラスの中で、特にたくましく生きているのがぎょろ目の夫婦だった。江戸からの血を受け継いできているというのだから驚きだ。だが残念なことに、ぼくを始め多くの人は、那須さんと違い、カラスのことをよく知ろうともしないで悪い面しか見ていなかったようだ。

 嫌われ者のカラスだが、人間と同じように子育てをする。ぼくは、家の隣の神社にある大きな木の上に、カラスの巣があるのを見たことがある。そのカラスは巣を作る木があり幸せだったと思う。が、ぎょろ目の夫婦は、なんと電柱に巣を作らざるをえなかった。きっと人間が、カラスにとって住みにくい環境を作ってしまったからにちがいない。その巣をまた人間が壊すのだから、なんだかカラスに申し訳ない。カラス達は自分の子孫を残すために一生懸命なのに。でも、いくら巣を壊されてもくじけず、また新たな場所を探すところに、ぎょろ目達の生きる力を強く感じた。

 そして今回、ぎょろ目の夫婦が選んだ場所は、アパートの近くにあるシイの木だった。しかし、迷惑をかけられた住人も黙っていない。ぼくはまた巣が壊されると思い心配したが、カラスも野鳥、巣を壊すにはすごい手間がかかるし罪になるという。ぼくはそれを知ってほっとした上、ぎょろ目達を応援したくなった。

 ぎょろ目達は子のためにえさを運び、身を粉にして世話をした。必死に子を守る姿、相手が強い猫でも人間でも、ひるむことなく立ち向かう姿からは、子を愛し、一匹も死なせないぞという親の強い思いが伝わってきた。だから、せっかく生まれた子ガラスが、電線に引っかかって死んだ時はつらかったことだろう。また、親が子を突き放す子離れの場面では、いくら子ガラスのためといえ、本当は親にとってもつらいことだろうと想像した。

 ぼくは、カラスも人間も、親が子を思い、子が親を思う心は、全く変わらないと思った。小さい命のカラスだって、少ない食料の中がんばって、そしてたくましく生きているのだ。カラスだからといってあなどってはいけない。

 唯一ぎょろ目と温かい関係にあった公園の男性との交流からは、カラスから人間に「カラスと人間は共存できるはずだよ。」と呼びかけているようにさえ感じた。ぼくは今後も人間対カラスの勝負が繰り広げられると思うが、まずは人間が自然を守ってやることが大事だと思った。ぎょろ目達の不屈な精神は必ず子ガラス達に受け継がれ、後の世にもずっと生き続けていくにちがいない。ぼくはこの世にあってはいけない命などないという気持ちを抱きながら、今日もまた、江戸の血を受け継いだカラスが飛び交う姿を思い浮かべている。
(「江戸っ子ガラス」くもん出版)


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