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受賞作品 感想文部門
一針に思いをたくして
三澤 楓
鳥取市立逢坂小学校6年 「母からの伝言−刺しゅう画にこめた思い−」光村教育図書
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一針。もう一針。エスターは、この刺しゅう画を作りながらどんな事を思っただろう。一針ぬうたびに、心が痛んだのではないだろうか。いろんな思いが交錯する中、それでもエスターは語りつがなければいけないと、この刺しゅう画を完成させたのだ。
「どうして殺されるの。ユダヤ人が何をしたっていうんだろう。」ページをめくっていくたびに、ホロコーストに対しての怒りや疑問がどんどんふくらんでいった。今では考えられないような迫害が平気で行われていたことがこわかった。何の罪もない人に意味もなく銃を向ける兵士。私と同じ年ぐらいの子が、きつい仕事をさせられて死んでいく姿。すべてきょうふで包まれた生活。でもその中を、必死で生きようとがん張っていたエスター。その勇気に私はとてもおどろいた。
私がエスターだったら、家族とはなれるなんてできない。みんなが死ぬんだったら私も死ぬと、クラシニクの道をたどっているにちがいない。しかし、エスターは生き抜く事を選んだ。ポーランド人といつわって生きようと決意したのだ。兵士たちはユダヤ人とわかれば殺害もするし都合よく使う。でも、ポーランド人として生きたエスターには優しく接した。つまり、ユダヤ人を完全に差別したのだ。何も悪くないのに。どれだけ苦しかっただろう。最初はただ「生きたい」という気持ちだけだったエスターも、「生きてこのホロコーストのことをみんなに伝なければ」と思ったのではないだろうか。差別を受けてきたこわさ、さびしさ、苦しさ…。それらはすべてエスターの刺しゅう画に語られている。
エスターの体験は報われ、ついにエスターたちに本当の自由が訪れた。アメリカの自由の女神の刺しゅう画を見た時、道徳で学習した「リンカーン」を思い出した。リンカーンは黒人どれいの差別に納得できず立ち上がった。差別をやめさせようと人々に訴え続けた。そのかいあって黒人どれいは解放され、みんなが自由になった。その時に贈られたのが自由の女神像なのだ。だから、本当の自由を手に入れたエスターにはぴったりだと思った。とてもとてもうれしいことだ。しかしもっと早くこの日が来れば、家族は、親せきは、たくさんのユダヤ人は助かったかもしれない。そう思うと、やっぱり苦しくて悲しくなった。けれど、エスターがいなければこの刺しゅう画に私は出会えなかった。私だけでなく世界中の人々が、ユダヤ人がいわれのない差別を受けてどれだけ生きるのが大変だったか、苦しかったか知ることはできなかった。
一針…もう一針。エスターがこの刺しゅう画にこめた思い。それは、もう二度と人々に同じ過ちを繰り返してほしくない、どれだけの人が傷付くか知ってほしい。そういうけん命な思いだったのだと思う。
エスター、あなたの思いはちゃんと届きましたよ。今、そしてこれからも、私の心の中にエスターの伝言は語り続けられていく。
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