地域の文化・風土を醸し、また、食料や木材、水の供給など自然資源を育む上でも重要な役割を果たす森林・里山。しかし、近年は増え続ける放置林、耕作放棄地などが深刻な環境問題をもたらしている。これまでも保育、観光資源としても注目されてきた森林・里山だが、地域の魅力創出に向けた保全と活用にさらなる取り組みが期待される。
さまざまな事業で地域再生 資源生かした体験講座が好評
NPO法人なんぶ里山デザイン機構
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デザイン大学講座で、地元のザリガニ料理に挑む受講者たち |
南部町は、環境省の「生物多様性保全上重要な里地里山500選」において、西日本で唯一、全町域が指定を受けている。この豊かな自然環境をフィールドにして、里山で暮らす人々を活気づけているのがNPO法人なんぶ里山デザイン機構(毎川秀巳理事長)だ。南部町から地域再生推進法人に指定され、移住定住サポート、空き家一括借り上げ事業、ふるさと納税業務、合間時間を活用した就労支援などを展開し、さまざまな形で里山保全に結び付けている。
このうち、里山資源を生かしたワークショップ「なんぶ里山デザイン大学」は、デザイン機構の立ち上げと同じ2016年から続く。活動の中心に据えているのが、遊びや手仕事、食を通じて学ぶ「里山暮らす」講座になる。本年度は▽草花を描く食す線細ペン画▽ハチミツ採取体験▽メダカ水槽作り▽藍の生葉染▽ガーデニング雑貨作り―などを実施し、後期も▽流木時計作り▽アウトドアスキル講座▽苔(こけ)玉作り▽つるかご作り―などを予定する。
担当する岩ア一美理事は「豊富な人材、恵まれた自然を上手に使って、楽しみ、学び、癒(いや)しにつなげている」という。参加者の約8割は町外からで、里山ならではの魅力を発信している。また、地元住民にとっては、里山の良さに改めて気付く契機となっている。どの講座も定員が埋まる盛況ぶりだ。
大学講座は、古民家を改修し、お試し住宅も兼ねた地域交流拠点「えん処米や」を中心に町内各所で開いている。今年から高姫地区を舞台に「明神谷(みやじだに)塾」を開講し、春にタケノコ掘りを体験学習した。秋には干し柿作りを行う。先人の知恵を後世に伝える活動は、試行錯誤を重ねながら、着実にすそ野が広がっている。
毎川理事長は「里山の自然を守っていくのはもちろんだが、何よりも、この地で暮らす“里人”が豊かにならなければ」と前を向く。人口減少や少子高齢化の厳しい流れを感じつつも、行政を補完して「生涯活躍のまち構想」の実現に挑んでいる。
わが社の環境(エコ)活動
鳥取市環境事業公社
鳥取市秋里/星見喜昭理事長
有機質肥料「土姫」PR
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循環型農業の推進が期待される土姫 |
食品廃棄物や良質な汚泥には窒素、リン、カリウムといった栄養分が豊富に含まれており、植物の成長をサポートする。
特に窒素は、植物がタンパク質を作るために必要な元素であり、大量に必要とされる。
これらの栄養分を多く含んだ環境に優しい有機質肥料「土姫」を製造・販売し、資源の有効活用に努める。
今秋には、現在土姫を利用している人をはじめ、初めて使用を希望する人にも感謝の気持ちを込めて「土姫」の大還元祭を開催。
農林水産省が「みどりの食料システム戦略」で推奨する化学肥料使用量の低減を実践し、肥料コストの削減や循環型農業に取り組む方法の一つとして、土姫の使用を促進していく。
鳥取県生活協同組合
鳥取市河原町布袋/井上約理事長
持続可能な社会目指す
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地域の清掃、美化活動に取り組む社員 |
持続可能な社会づくりを目指し、環境配慮商品の利用普及や学習活動とともに、再生可能エネルギーの利用や森林保全などさまざまな側面から取り組みを進める。
鳥取県生協独自の行動指針(鳥取県生協のSDGsアジェンダ)で、2030年までに13年度比で46%のCO2削減を目標に掲げ、本年度は太陽光パネルを中・西部支所に設置し、全事業所で再生可能エネルギーの使用が可能になった。
09年からは「とっとり共生の森」参画団体として、県、倉吉市、中部森林組合、地元富海地区と連携し、「CO・OP虹の森」で地域住民、組合員家族や生協職員と森林保全活動を行っている。
また、食品ロス削減に向け、余った食材を集約して福祉団体などに寄付する「フードドライブ」にも力を入れる。
有限会社 中本産業
湯梨浜町南谷/中本紀昭社長
松林保全の防虫方法探る
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伐採した松の切り株にある虫くい穴を調査する様子(今年2月) |
近年深刻化している北栄町の海岸の松枯れ被害を受け、原因となっている松くい虫を防除する対策を独自で調査研究。地域資源の保全に寄与している。
鳥取市賀露町の松林を試験場に昨年2月から研究を開始。
伐採後、1年間放置した松の切り株に幼虫が食った痕跡がある本数を調べ、今年は伐採直後の株に薬を塗ることで、どれだけ予防効果があるのかを調査した。
従来の薬剤散布に加え、可能となる防除方法を探っている。
防風や防砂、観光資源として重要な役割を果たしている松林。
中本社長は「地域の自然環境を守るのはわれわれ住民の役目。自然と長く共存していくためにも、できることからやっていかなければ」と力を込める。
未来へつなぐ私のチャレンジ 公立鳥取環境大学通信
(5)狩猟者を増やす方法模索
環境学部環境学科4年 久我谷 光
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「里山を守りたい」と思うきっかけとなった景色 |
家を出た瞬間、タマネギを手に取ったサルと目が合った。動けずにいると、祖父の「こらー!」という怒号に驚き、サルはタマネギを落として逃げていった。
こんな山あいの土地で育った私は、森林組合に勤める父の影響で幼い頃から里地、里山に出入りする機会が多く、日本の原風景に懐かしさと愛着を感じてきた。しかし、里山は手入れがされなくなり、荒廃が進んでいる。荒廃した地域を復活させるには、人間と自然が共存する環境を再構築することが重要だが、簡単ではない。例えば、それは獣害の問題にも表れている。
獣害を防ぐためには猟友会への依頼が考えられるが、狩猟者数は年々減少している。鳥取県では1989(平成元)年度に約2千人いた第1種銃猟登録者が、2022(令和4)年度には445人と大幅に減少し、高齢化も進んでいる。
この状況を改善するために、私は鳥取県の狩猟者増加を促す研究を始めることにした。
現在、猟友会員の方を対象にしたアンケートを解析している。現状の課題を把握し、他県の取り組みを参考にしつつ、若い世代が狩猟に参入しやすい鳥取県独自のマッチング制度などのモデルの提案できればと考えている。
この研究が将来、里地、里山の利用と再生に関心を持つ人々の参入の壁を少しでも取り払うことができれば幸いである。