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vol.152 エコツーリズムの推進 自然観光資源を生かす
2022.2.25
もともと地域にある資源で、誘客を促進するエコツーリズム。自然が豊かな鳥取県では、エコツーリズム推進の取り組みが長年続けられてきた。脱炭素や持続可能な開発目標(SDGs)の流れもあって、エコツーリズムの注目度が高まっている。
エコツーリズムは、開発から自然保護へ産業の転換を促す考えとして生まれ、持続的な観光振興を目指す概念と捉えられるようになった。環境省によると「自然環境や歴史文化を対象とし、それらを体験し、学ぶとともに、対象となる地域の自然環境や歴史文化の保全に責任を持つ観光のありかた」とされる。
日本では1990年ごろから民間事業者がエコツアーを実施するようになり、国は2003年から04年にかけてエコツーリズム推進会議を設置。07年6月にはエコツーリズム推進法が成立した。
同法において、市町村と観光事業者やNPOなどでつくる各地域の推進協議会がエコツーリズム推進を担う。協議会はまず、推進する地域や対象となる自然観光資源、エコツアーの実施・自然観光資源の保護などに必要な事項を定めたエコツーリズム推進全体構想を作成。市町村が全体構想を国に申請し認定されると、保護が必要な自然観光資源を市町村が指定して、措置を講じることができるようになる。
地域の魅力を再認識 素材引き立つ仕掛けが必要 とっとりコンベンションビューロー 石村隆男理事長
2013年に「エコツーリズム国際大会2013in鳥取」が開かれるなど、鳥取県では長年、エコツーリズムが進められてきた。それをけん引してきた一人、とっとりコンベンションビューローの石村隆男理事長に、今後の道筋などを聞いた。
−エコツーリズムとは。
従来の観光の多くは、資源の発掘、施設整備、観光利用のサイクルだった。これは消費型といえる。しかし、消費の結果、忘れ去られてしまった観光地も多かったのではないか。
エコツーリズムは、このサイクルに資源管理や継続の概念が加えられた。資源管理を言い換えると、まずはわれわれが地域を知り、尊重し、大事にすることだと思う。そして、来訪者が観光後も継続的に応援してくれるようになることを目指さなければならない。
−国際大会開催を振り返ると。
大会後、ウオーキングやサイクリングが盛んになった。民間レベルでも、大山の森の国が行う各種ツアーの参加者が増えている。18年の大山開山1300年も、もともとの資源にあらためて光を当て、大切にし、活用するという流れを加速させた。こうしたことは地道に続けていかなければならない。
−具体的には今後、どうするべきか。
成功の鍵は、地域の魅力を地元を含め皆が認識することだ。好例として、弓浜半島で20年に全線開通した白砂青松の弓ケ浜サイクリングコースがある。青い海や白い砂浜、松林はもともとあったが、以前は海との間に無意識の隔たりがあり、せっかくある素材を感じたり体験したりする機会が少なかった。対して、海岸線にサイクリングロード1本を通すことで、皆の視線を海や砂浜に向けることができ、実際に魅力を体感できるようにもなった。
エコツーリズムといっても、今ある素材をそのまま、ではうまくいかない。素材を引き立たせ、ストーリーを生み出すような仕掛けが必要だ。それは従来あるものに別の視点をもたらす“補助線”のようなもので、今後も知恵を絞り、素材に合った売り出し方を考えていかなければならない。
活動事例紹介 にちなんエコツーリズム推進協議会 自然を守りながら活性化 生物調査を基にツアー構想
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オオサンショウウオを調査する関係者 (同協議会提供) |
日南町で自然保護とエコツーリズムによる地域活性化の両立を目指す「にちなんエコツーリズム推進協議会」が、設立から3年を迎える。環境省の助成で進めてきた生物調査などの補助事業は本年度が最終年度。今後、同町の特性を盛り込んだエコツーリズム推進全体構想を作成する。
同町はホタルやオオサンショウウオなど観光素材にもなり得る自然資源に恵まれたエリア。自然に悪影響を与えないエコツーリズムを形にしようと、町内の生物保護団体や同町など10団体が2019年3月、協議会を設立した。
21年度までの3年間、定点カメラを設置したり専門家に委託したりしてオオサンショウウオやホタル、その他野生動物の生息状況を把握。エコツアーガイドの養成、ツアー商品をつくる際の参考材料とするモニターツアーをした。
エコツアーのテーマとなる、同町の魅力の再発見にも力を入れた。町観光協会が中心となって町の宝を聞き取り調査。自然、生活環境、産業、歴史・文化などのテーマ別に1500を超える宝が挙がり、地域の自然と人の営みを表した季節暦「フェノロジーカレンダー」として取りまとめた。
来年度以降は調査の成果を基に、自然を守りながらエコツアーをするためのルールである全体構想を策定する。その先は、ツアー実施主体を含めて同町内の態勢づくりを進めるつもりだ。協議会事務局の下本隆司さん(57)は「自然資源の利活用と保全はどちらも大切な命題。両立させるための客観的なルールをつくりたい」と話す。
気候変動時代を生きる
誰もが享受できる社会
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2018年の西日本豪雨では鳥取県内でも被害が相次いだ(智頭町内) |
世界はなぜこれほどまでに、脱炭素を急いでいるのでしょう?それは、今後10年が危機を回避するために重要な「決定的な10年」だからです。
2018年には西日本豪雨や関西空港が水没した台風21号などで、損害保険の支払いが東日本大震災を上回る1兆円を計上。19年も東日本の広範囲で2兆5千億円の経済損失を与えた豪雨に見舞われました。ヨーロッパを襲った21年の水害は史上3番目の大被害をもたらすなど、30年前と比較し世界全体で気象関連の経済損失は3倍、保険支払いは4倍に上りました。
こうした経済的危機感が脱炭素に向かう世界の機運を高めていくことになり、日本を含む全先進主要国が「2050年脱炭素」の目標を共有。昨年11月開催のCOP26で「気温上昇を1・5度以内に抑える」野心的目標を確認し、産油国ですらカーボンニュートラルの旗振りをしています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)もCOP26での野心的目標を「道筋に乗せる必要がある」と最新の科学を基に公表しているのです。
では、具体的にどうすればよいのでしょう? 答えは既にあります。建物の断熱性を高め、電気自動車(EV)化を加速する。再生可能エネルギーに切り替えるなど今ある技術で実現できることを確実に実行し、雇用をグリーンに置き換えていく。一人一人の努力ではなく誰もが享受できる社会にすること。オイルショックとは違い、我慢したり奪い合い、押し付け合ったりするより、分け合うことで持続可能な経済社会をつくっていくことができるはずです。
すでに兆しではなく真っ只中にある変化を待つのではなく、主体として支える人であり、地域であることができるか。10年後の答えはそこにあります。
(ECOフューチャーとっとり 山本ルリコ)
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