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vol.142SDGsの推進
2021.01.31
地球上には今、「待ったなし」の危機が迫る。地球の温暖化をはじめとする環境問題もその一つで、国連が定めた持続可能な社会を実現していくための開発目標(SDGs)と幅広い分野で関わる。鳥取県内でも、こうしたグローバルな社会問題を解決すべく、SDGsの達成に貢献する企業の取り組みが広がりつつある。未来を左右する2030年までの10年、私たちに何ができるか、SDGsを通して考える。
鳥取県新時代・SDGs推進課 課長 中村吉孝氏に聞く
地方創生に結び付け活性化 ビジネスマッチング機会を
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◆SDGsとは
国際社会が協力して2030年までに達成を目指す「持続可能な開発目標」。貧困や飢餓の廃絶、地球環境の保全など15年に国連サミットで採択された17項目の目標などで構成されている。通称・グローバルゴールズ。 |
鳥取県の政策全般にSDGsの概念を取り入れ、総合政策調整を担う鳥取県新時代・SDGs推進課課長の中村吉孝氏に、現状や浸透策などについて聞いた。
−SDGsが鳥取県の地域づくりにどうつながるか。
「誰一人取り残さない」というSDGsの理念の下、人口減少対策などの地方創生に結び付く。世界共通の思想ができたことで、分野を問わずさまざまな人々が連携協力できる可能性が広がることは大きい。
−鳥取県は、住民の視点で民間調査会社が行った「SDGsへの取り組み評価が高い都道府県ランキング2020」で1位だった。
県民意識調査では約3割が「SDGsという言葉・内容を聞いたことがある」と答えた。若年層の割合が高く県内の認知度は上がってきているが、十分ではない。「平和と安全・安心社会の実現」、次いで「省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会」などの課題に高い関心が寄せられている。
−「とっとりSDGsパートナー登録団体」は約半年で60を超えた。
これまで企業や経済団体などに出向きSDGsの意義を説明することもあり、団体登録の反応は良かった。企業としてSDGsの取り組みを発信することはイメージアップになり、人材確保に有利だ。投資先としての信用度も上がる。ただ、一つのゴールを達成するために別のゴールが遠のくことがないよう、バランスの良いSDGs経営をお願いしている。
−企業への今後の具体的な浸透策は。
SDGsに取り組む企業同士のビジネスマッチング機会を提供したい。また、企業認証制度を立ち上げることも検討中だ。認証企業が何らかのメリットを実感できるような制度をイメージしている。
−企業、個人で実践できる環境分野の実践事例は。
例えば建設業なら建設廃材をリサイクルし再利用することや低騒音型機械の使用も当てはまる。個人ではごみの減量・分別、節電・節水など自宅や職場でできることはたくさんある。CO2の排出削減につながる太陽光の利用だけでなく災害時にも役立つ蓄電池の普及も必要で、エリアで共同導入することも選択肢の一つになり得ると考えている。
−県民一人一人が心掛けることは。
気付いたら始めてもらう、そしてどんな小さなことでも続けていく意識を持つこと。SDGsのゴールは10年後。今しなければならないことで「これからの人のことだ」と言って若い人任せにしないでほしい。みんなが自分事として捉え、取り組んでいくことが大事だ。
気候変動時代を生きる 省エネ住宅に取り組む理由
鳥取県が先進的に取り組む独自の省エネ住宅基準(ネスト)。温暖化対策の切り札として注目されているのですが、なぜでしょうか。それは、複数の目標にまたがる包括的なアプローチが不可欠と言われるSDGsそのものの取り組みでもあるからです。
冬寒く、夏暑い住宅性能に起因する死亡や後遺障害。それに伴い介護期間が長くなる日本の住宅を断熱化することで、命や健康を守り、医療や介護の負担を緩和し、自治体が補?(ほてん)する福祉・医療・介護費も削減できます。
生活に関しては大寒波や熱帯夜など異常気象にも適応し、防災対策としても有効です。ローエネルギーで光熱費を削減でき、しかも快適。さらに住宅高寿命化で資産価値が高まります。また、県産材の活用推進は、CO2の吸収源である森林の育成になり、林業活性化にも直結します。ご存じのように建築業はすそ野が広く地域の雇用を支える重要な産業でもあり、この分野の投資で、地域に税収増として循環します。
国もグリーン成長戦略の主要事業に位置付けるほど、温暖化対策をはじめ、持続可能性にかかわるさまざまなな課題を解決でき、取り組まない理由がない省エネ住宅です。
この制度、そもそもは日本の住宅断熱基準に法的拘束力の無い現状に危機感を持った住宅関連事業者や医療、林業、環境・エネルギーの分野の専門家や行政など多様なセクターが協働で取り組んだ成果でもあります。このパートナーシップが包括的アプローチの軸となりました。このように地域の課題とされるテーマこそ、持続可能性のゴールへ近いはずです。SDGsもそろそろタグ付けから卒業し、課題に正面から取り組む時期が来ているのではないでしょうか。(鳥取県地球温暖化防止活動推進センター・山本ルリコ)
参画企業の活動紹介
SDGsに積極的に取り組む企業、団体、個人などの活動を「見える化」して横展開を促すための「とっとりSDGsパートナー」制度に参画している企業の活動を紹介する。
自然浄化力生かす汚水処理システム 大成工業(米子市)
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バラナシ市の公衆トイレに設置した同社の汚水処理システム。奧の建物は隣接する小学校(2019年4月、大成工業提供) |
生活排水処理施設設計・施工の「大成工業」(米子市)が開発した環境配慮型トイレが、下水道の普及が進んでいないインドで国際協力機構(JICA)の普及・実証事業として導入され、注目されている。
同社が1983年に開発した自然の浄化力を生かした汚水処理システム。地中タンクにたまった汚水を嫌気性菌で分解処理した後、特殊な不織布を施した土壌処理装置を通して処理水を土中に拡散させる。
下水道や処理水の放流先がない場所でも使用でき、電力が不要で半永久的。日本国内では公園や山小屋のトイレなど約500カ所で実績がある。
インドでは、ガンジス川流域の公衆トイレ(バラナシ市)と大学の学生寮(ムザファルナガル市)に設置され、本年中にかけ実証を行う。三原博之社長は「『安全な水とトイレを世界中に』を軸に、衛生教育などにも努めたい」と話している。
地域づくり継続し脱炭素社会へ対応 鳥取ガス(鳥取市)
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本社ロビーに掲げる「とっとりSDGsパートナー証」。住み続けられる地域づくりを継続して取り組むことを宣言した |
ガス、電気などインフラ事業で人々の暮らしを支える鳥取ガス(鳥取市)は昨年11月、鳥取県が呼び掛ける「とっとりSDGsパートナー制度」に参画。これを機に今月、SDGsへの取り組み姿勢を自社ホームページ上で公表した。
エネルギー供給という公共性の高い事業特性から、元々環境への配慮や住み続けられる地域づくりの視点を備えた事業を展開していた同社。あらためてガスをはじめ、再生可能エネルギー由来を含む電力の安定供給、インターネット通信や宅配水などの生活サポート事業、山間部見守りなどの地域貢献活動を通じて、住み続けられる地域づくりを達成すると宣言した。
経営企画グループの森田裕一部長は「これらの取り組みをしっかり継続し、その上で脱炭素社会への対応も図りたい。エネルギー原料としての水素の可能性のさらなる追求など、鳥取ガスだからできる目標達成を目指したい」と話している。
中古ランドセルを必要な人へ届ける 流通(倉吉市)
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昨年12月の譲渡会の様子 |
運送やイベント業、暮らしサポートを担う流通(倉吉市)は、一度役目を終えたランドセルを必要な人に贈るプロジェクト「ランドセルFOR ALL」に取り組む。SDGsの“質の高い教育をみんなに”へのアクションの一つで、約100個が新たな持ち主のもとで活用される予定。
プロジェクトリーダーの江原朋美さんがランドセルの処分に困っている声を多く聞き、着手。回収ボックスなどを設置して、寄贈者のメッセージタグとともに県内外から約200個集めた。譲渡会のほか、外国人地域サポーターなどの協力も得ながら国内外の必要な子どもたちに贈ることにしている。
江原さんは「環境問題を考える機会づくりはもちろん、コロナ禍でコミュニケーションが取りにくくなった今こそ、“Give&Give”の取り組みで物を介して人と人がつながるきっかけにしたい」と話している。
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