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vol.145 環境に優しい再エネの活用
2021.05.28
太陽、風、水、地熱、森林など自然の力を利用してつくる再生可能エネルギー(再エネ)。化石燃料を使う発電と比べると、二酸化炭素(CO2)の排出量が少なく、地球環境に優しいエネルギーだ。山と海に囲まれた鳥取県内では太陽光やバイオマス、小水力を利用した発電施設が着実に拡大し、再エネの導入量を押し上げている。
「依存」からシフト 県内の導入状況
県内に火力・原子力発電所がないため、必要な電気の大半を他県での発電に依存してきた鳥取県。緩やかなエネルギーシフトを掲げ、再エネ導入推進に取り組んできた結果、2019年度末の需要電力における再エネ比率は全国上位の38・7%と、全国平均18・1%を大きく上回った。
県内の再エネ設備の導入量は累計で100万キロワットを超え、一般家庭を含む民生用電力を賄える水準にまで達した。約10年後の30年度末には再エネ比率60%を目指している。
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2015年に県企業局が運転を開始した鳥取空港のメガソーラー(提供) |
◆ 太陽光発電 ◆
利点 比較的管理が容易
課題 天候で発電出力が左右
2012年スタートの固定価格買取制度(FIT)に伴い、メガソーラーなど大規模な事業用施設の導入が相次いだほか、小規模な住宅用施設の設置数が大幅に増えた。
一方、事業用では農地の上部空間を活用し、営農しながら発電するソーラーシェアリングや、水上太陽光発電など民間による新たな取り組みも散見される。
◆ 風力発電 ◆
利点 昼夜を問わず発電可能
課題 風況で発電出力が左右
県内初の大型風力発電が湯梨浜町に設置されたのが2002年。これは18年12月に撤去され、現在40基の風車が稼働中。設置主体は自治体から民間に移り変わり、08年以降、大型風力発電は導入されていない。
設置主体は大山町1基、鳥取県3基、北栄町9基、民間企業27基。21年3月現在、県内3カ所で風力発電の環境影響評価の手続きが行われている。
◆ バイオマス発電 ◆
利点 天候に左右されない。資源を有効活用し、廃棄物を削減
課題 材料の安定供給の仕組みが必要
民間による木質バイオマス発電などで、2019年度末では県内再エネ導入量の半分以上を占めた。
本格的な木質バイオマス発電所は、境港市西工業団地で15年から運転を開始した日新バイオマス発電所を皮切りに、17年には鳥取市に三洋製紙バイオマスプラントが稼働。現在3カ所で新たなバイオマス発電所の建設が進んでいる。
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俣野川発電所(提供) |
◆ 水力発電 ◆
利点 安定した発電が可能
課題 中小規模設備は相対的に発電コストが掛かる
県内では中国電力、県企業局、市町村・電化農協などの約50カ所発電している。中でも新エネルギーとして注目されているのが、ある程度の水の流れと落差があれば発電できる小水力発電。一般河川、農業用水、砂防ダムなどを有効活用でき、現在も県内各地で事業可能性調査が行われている。
江府町にある中国電力の俣野川発電所は中国地方最大の揚水式発電所。太陽光発電の余った電気で水をくみ上げ、必要なときに発電する「大きな蓄電池」の役割を果たす。同社は「中国エリア全体の太陽光発電の導入拡大にも貢献している」と強調する。
気候変動時代を生きる
未来からの視点で 地域経済を脱炭素化
日本政府は先月、2030年までの温室効果ガス削減目標を46%に大幅修正しました。世界の国々も気候対策への取り組みを加速中です。
そんな中、国際エネルギー機関(IEA)より「2050年までのネットゼロ(脱炭素)ロードマップ」が発表されました。そこには、あとわずか30年で世界経済を脱炭素化する具体策が提案されています。例えば「30年に全ての新築建物を排出ゼロ仕様に」「35年にエンジン車の販売全面禁止」「40年既存建物の50%を排出ゼロ仕様に」−などです。
これに対して「技術的に可能なのは分かるけど、家計からは捻出できない」「電気自動車(EV)はまだ高い」「新築はまだしも、既存住宅の断熱は元が取れない」という否定論が、何と政策サイドからも聞こえてくることがあります。化石エネルギーを燃やして発展してきた古い前提を疑わない人が情報を更新することなく、やらない理由にしているようにも見えてしまいます。それが未来にツケを回す原因だと早く気付いてほしいものです。
確かに従来、右肩上がりの成長を前提としてCO2排出産業が経済をけん引してきました。しかし、その間に、地域から経済(お金)が流出して格差は拡大し、持続可能性の選択肢が狭められてきました。ネットゼロロードマップは、お金や資源の流れをひっくり返して地域経済を脱炭素化することで、最悪の結末を回避し、持続可能な社会を早くつくろうと、未来からの視点で挑戦を促しているのです。
「50年までに省エネ住宅に皆が住むには?」「35年までに誰でもEVカーを利用可能にするには?」「再生可能エネルギーで地域の雇用を倍増するには?」−。あと30年、やらない理由を探す時間はもうありません。
(鳥取県地球温暖化防止活動推進センター・山本ルリコ)
地域を支える環境(エコ)活動
鳥取ガス株式会社
(鳥取市五反田町、児嶋太一社長)
再エネの地産地消推進
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小学生向けの出前授業の様子 |
鳥取ガスをはじめとするエネトピアグループは、脱炭素社会に向けて太陽光やバイオマス、水力発電など、再生可能エネルギー(再エネ)の地産地消を促進。地域経済の好循環も期待する。同社が鳥取市と設立した「とっとり市民電力」は、秋里下水処理場バイオマス発電所などを活用し、電力を供給する。また小学校での出前授業など啓発活動も行い、再エネの普及を着実に進める。
持続可能な開発目標(SDGs)に関しては、鳥取県の「とっとりSDGsパートナー制度」にも登録。エネルギーの安定供給やサービスの多様化、地域社会への貢献活動を展開している。
日本風力エネルギー株式会社
(東京都港区、ホアン・マス・ヴァロー社長)
鳥取県で風力発電開発を計画
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熊本県内に建設中の風力発電所 |
親会社の「ヴィーナ・エナジー」は、9カ国18拠点で事業展開するアジア太平洋地域最大級の独立系再生可能エネルギー(再エネ)発電事業者で、日本国内でも太陽光、風力などを利用した再エネ発電を推進している。
現在、太陽光発電事業は国内24カ所で、国内最大規模の448メガワットを稼働している。また、風力発電事業は青森県内で36メガワット、熊本県内で7.5メガワットの風力発電所を建設中。このうち熊本県の風力発電所は、今年6月末にも商業運転を開始する予定だ。
鳥取県内でも風力発電所開発を計画しており、地域住民や専門家の意見を聞きながら推進していく方針。
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