そう遠くない将来、国内の新車販売で、走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しない電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)などの電動車が主力となることが見込まれている。環境に優しいエコカー普及への“現在地”を考える。
電気供給のインフラ充実
公立鳥取環境大環境学部サステイナビリティ研究所所長 田島正喜教授
次世代の環境車として本命視されるEV、PHVの国内新車販売台数に占める割合は、現状でそれぞれ1%に満たないが、自動車メーカー各社はEV車種の拡充などガソリン車からの転換を進める。運輸部門において地球温暖化対策の鍵を握る電動車普及の現状、課題などについて、公立鳥取環境大の「サステイナビリティ研究所」所長で、環境・エネルギーが専門の環境学部、田島正喜教授に聞いた。
−EVの普及に求められるのは。
2009〜15年のデータによると、鳥取県の1万人当たりのEV保有台数は5・77台で、47都道府県中23位。今後、EVをガソリン車並みに普及させるには、県内に約270カ所(うち急速充電スタンド70)設置されている充電スタンドなど、出先で車に電気を供給するインフラをもっともっと増やしていく必要がある。
−夜間充電のための自宅などへの投資も必要では。
200ボルトの充電コンセントを自宅に設置しないといけないが、集合住宅の所有者、管理者が住民の保有台数分の充電設備を駐車スペースに設置できるかどうか。古いマンションなどは、後付けで充電設備を作るのが難しいといわれていて、インフラ形成を進めていく上でのポイントになる。既設の集合住宅用に充電設備を設置できる手厚い補助など、行政支援の充実も求められる。
−EVなど電動車は脱炭素社会の切り札になれるか。
車自体はCO2レスの方向に向かっているが、問題は電気を作る過程で化石燃料を使い、エネルギー供給側の方でCO2を排出しているケースがたくさんあることだ。例えば、県内の急速充電スタンドにしても、主に火力発電の電気を使用している。エネルギー構造の改革を進め、CO2を出さずに電気をどう作っていくかということにもっと目を向けていかないと、本当の意味で温暖化対策にならない。
−水素で走る燃料電池車(FCV)も期待される。
燃料を充填(じゅうてん)すれば、ガソリン車並みの距離を走れるのがFCVの特長の一つ。燃料の水素を作るのに石炭を使えばCO2が出るが、バイオマスである下水汚泥など自然エネルギーでCO2を出さずに再エネ水素を作れる。この技術を活用すれば、鳥取市の秋里下水処理場でも実現の可能性はある。水素の研究者としては、水素を充填する商用ステーションが県内に1カ所でもでき、現在は県内に2台しかないFCVではあるが、今後普及拡大することを願う。
潜在的な需要拡大 蓄電池としても利用
「環境意識の高まりとモビリティー(自動車などの移動体)の在り方の変化がEVの本格的普及の起点になっている」。EVの現状について、EVをリードしてきた日産自動車の系列ディーラー、日産プリンス鳥取販売(本社・鳥取市千代水4丁目)の中津尾直己専務はそう分析する。
日産が現代のEVの先駆けとなる初代・リーフを発売したのは2010年12月。当時は環境に敏感な消費者を中心に支持された。それから10年以上がたち、脱炭素や持続可能な開発目標(SDGs)の意識が一般的になるにつれて、EV需要の裾野は広がった。それを裏付けるのが、6月発売の軽EV「日産サクラ」。同社に実車が届く前から問い合わせが寄せられ、多数の注文を受けたという。中津尾専務は「広く乗っていただきやすい軽EVの市場投入に際し、潜在的な需要が拡大していることを実感できた」と話す。
さらに、利用方法の多角化がEVの普及を後押しする。かつては搭載する電池の容量の問題で航続距離が心配されることもあったEVだが、現在は電池容量が飛躍的に拡大。航続距離の不安が解消されるとともに、EVをあたかも蓄電池のように生活の中で利用することができるようになった。
住宅に「V2H」と呼ばれる機器を設置すれば、住宅の太陽光パネルで発電した電気や電気料金が安い時間帯に電力会社から購入した電気をEVにためることが可能。ためた電気は災害時や太陽光パネルで発電できない夜間に、V2Hを通して住宅に供給もできる。
太陽光パネル設置から10年の経過で売電価格が下がる家庭が今後増えることから、ますます蓄電池としての利用が注目を集める。EVによって人と車の関係が変化していることを踏まえ、中津尾専務は「これからはカーライフをより幅広く捉え、車を使った楽しい生活様式を提案していきたい」と話す。
地域を支える環境(エコ)活動
日産プリンス鳥取販売株式会社
(鳥取市千代水4丁目、櫻井誠己社長)
多彩なEVそろえ、普及推進
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EVに可搬型給電器をつなぎ、各種イベントで電気を供給 |
EVの代名詞となったリーフをはじめ、スポーツタイプ多目的車(SUV)型EVのアリア、軽EVのサクラと、多彩なEVをそろえ、次代の車社会を見据えた活動を展開する。
東日本大震災でリーフが電気の供給に貢献したことから災害に強いEVの特性を生かそうと、鳥取県の「とっとりEV協力隊」に積極的に参画。米子市であった地ビールイベントやドライブインシアターなどで電気を供給し、EVの活用法を広めてきた。
EVの普及を先導してきたが、その根底にあるのは、車が人と地球にとって優しい存在であってほしいという思い。ガソリン車やハイブリッド車を含め、エコドライブの大切さを各地で伝える。
株式会社明治製作所
(倉吉市駄経寺町、斎木憲久社長)
サスティナビリティ委員会設立
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緑豊かな立地環境に恵まれた敷地内で脱炭素に挑む |
国内販売車の電動化などで「100年に1度の変革期」を迎えていると言われる自動車業界。自動車部品製造を事業の主軸とする業界のサプライヤーとして、本年度から社内に「サスティナビリティ委員会」を立ち上げ、カーボンニュートラルへの取り組みを本格化した。
省資源、廃棄物削減など技術力を駆使した地球に優しい環境づくりに取り組む“環境方針”を全社員に徹底し、社内外に開示してきた同社。「日本の自動車産業はこれまでも持ち前の技術力で省エネなどを実現してきた。これからも未来へ地球環境を残すのはわれわれの責務になる」として、長期的な視点で環境に配慮した持続可能な経営を会社一丸となって推進していく考え。
三井住友海上火災保険株式会社 山陰支店鳥取支社
(鳥取市扇町、牧村均支社長)
中小企業の脱炭素経営を支援
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CO2排出量の算定結果などに関する報告書のひな形(左)ととっとりSDGsパートナー証 |
大手企業を中心にサプライチェーン全体でのCO2排出量削減を追求する「脱炭素経営」の動きが加速。県内中小企業がこれらの動きに対応できるよう、脱炭素経営のワンストップ支援を昨年6月から開始した。
脱炭素経営の進め方のアドバイスやセミナー実施、チェックシートを元にした各事業所の事業運営で排出するCO2の算定、結果を踏まえた削減活動や目標設定などを支援する。必要性は感じながらも取り組み方が分からなかった事業所から喜ばれている。
とっとりSDGsパートナーで、とっとりSDGs企業認証制度の取得を支援する機関でもある同支社は「脱炭素経営にいち早く着手し、選ばれる中小企業が増えることで、持続可能な地域づくりに貢献できれば」としている。