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vol.155 森林や里山の保全、活用
2022.5.28
暮らしを支える森林や里山を保全し、地球環境に優しい形で利活用する働きかけが私たちに求められている。木材それぞれの価値に沿った利活用の方法を選択し、持続可能な森林管理と木材流通の形を実現しようとする「カスケード利用」の考え方は、そうした働きかけにつながる一つだ。
森林資源を無駄なく 「カスケード利用」で循環
公立鳥取環境大環境学部 副学部長 根本昌彦教授に聞く
今、私たちが知っておきたい森林や里山保全の考え方、活用の理想的な循環について「カスケード利用」の考え方も含め、公立鳥取環境大環境学部、副学部長の根本昌彦教授に聞いた。
−森林資源の利活用や保全対策を考える上で、重要な視点は。
地球温暖化への貢献という観点では、何より森林を減らさないこと。次にすでにある森林は二酸化炭素の貯留量を高めるためにも、豊かに太らせること。森林資源利用時には、森林の成長量の範囲内で伐採を行い、利用する木材は長期間、かつ余すことなく使う視点も必要だ。
−木材の「カスケード利用」とは。
森林空間をさまざまに利用した上で、木材を無駄なく、効率的に利用する考え方や手法を指す。良質な木材は建材に使い、合板やパルプなどの活用を経て、最終段階でバイオマス発電の燃料使用を目指すなど、品質に沿った価値を実現していくことだ。ただ、良質の材木の価値を生かした使われ方ができる場面が少なくなっている。付加価値の付け方が重要。林地に放置される未利用材への対応も求められる。
−県内外で木材のカスケード利用の実践例は。
日南町では、木材の搬出、集積、仕分け、単板積層材(LVL)の加工製造からチップ工場まで、仕分けた材質に沿った利活用が効率的になされている。智頭町の未利用間伐材を地域通貨に引き換える仕組み「杉小判」制度は、山林保全と地域経済活性化の両立が目指せる。
岡山県真庭市のバイオマス発電所は、森林から出る間伐材や林地残材など、燃料となる地域の木材収集能力を換算した上で適正規模の発電所を整備。順調に稼働を続けている。地域で完結できるサイズ選択や仕組み構築の良い例だと思う。
−森林資源の保全や活用の理想に近づくため、私たちにできることは。
景観も含め、どんな森林資源の在り方を理想とするか、地域単位で考えること。その青写真を描く場に、住民が参画すること。適切な利用と保全による地域内の好循環が、豊かな暮らしを持続可能なものにしていくはずだ。
J―クレジット好調 SDGs構想が浸透 日南町
J−クレジット制度に参加している日南町のクレジット販売が好調だ。伸び続ける近年の中でも特に2021年度は前年度比で販売件数が4倍超、販売量が3倍へと大幅に増えた。
販売できる削減・吸収量を国に認証されるには、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用など6分野のいずれかに取り組む必要があり、町は森林による吸収量を扱う森林分野で、町有林の適切な間伐によって302ヘクタールで吸収される量6604トンの認証を13年に取得、1トン当たり8千円(税別)で販売開始した。
販売好調の要因を、持続可能な開発目標(SDGs)の考え方の浸透と、仲介企業の支援と町は分析する。現在、企業経営の柱の一つに環境活動が据えられ、その取り組みが企業価値を高めている。町は、販売最少単位を1トンからと参加しやすくし、全ての契約で式典を行い、購入企業のイメージアップに貢献。山陰合同銀行、鳥取銀行、米子信用金庫、第一生命保険鳥取支社の仲介で実現した案件は多い。
22年以降のクレジット残量が約1100トンとなり、完売が見えてきた。町は新たな認証取得に向けて準備を進める。また、販売で得た資金を植林の費用に充て、森林を活用しながら守り続ける経済的循環の確立を目指す。
気候変動時代を生きる
温暖化対策も「個」より「構造」
北海道・知床沖の観光船沈没事故と山口・阿武町の誤送金問題、この二つの事故と事件が連日報道されています。多くは起きたことの責任を一会社や個人の責任として、当事者の振る舞いや生い立ちなどを掘り下げ責めるような内容が多く見受けられます。
日本の社会は、良くも悪くも出来事が起きる原因となる「構造」よりも「個」に帰結すると捉える傾向が強いようです。
以前筆者が住んでいたドイツでは、信号機は交差点の手前にしか設置してありませんでした。信号無視ができないようにするためです。片や日本では道の向こう側にも信号機があるので、青で交差点に進入しても、通過中に黄色に変わることがあります。信号無視をしてはいけないのは両国とも同じなのに、日本では急いでいたり、せっかちな性格だったりすると信号無視をしやすく、それによる交通事故を信号機の設置場所によって生みだす構造が放置されているようにも見えます。
温暖化対策も同じで、ドイツでは「年間に既存住宅の○%を断熱改修するために補助金を毎年○ユーロ予算化」「CO2を排出する化石エネルギーには高い炭素税で消費を抑え再エネへの転換を推進」などの仕組みを整備するのですが、日本では「電気のスイッチをこまめに消す」とか「省エネ家電に買い替え」など個人の心掛けに訴える傾向が強く、対策の効果が見えにくいのが現状です。
今すぐ温暖化ガス排出をゼロにしないと間に合わないほど、地球は待ったなしの危機にあります。知床の事故や山口の事件同様、個人の責任感ではなく、対策への構造構築が急がれているのです。
(ECOフューチャーとっとり 山本ルリコ)
地域を支える環境(エコ)活動
大下林業有限会社
(鳥取市岩坪、大下武夫社長)
循環型林業を心がける
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持続可能な林業を目指して業務に励む |
住みよい環境を守るために心がけているのは「循環型林業」。無理な伐採はせず、なるべく安全な場所に作業道を整備するなど、森と共生するための気配りは絶対に欠かせない。
林地残材を極力なくすために、小径木や幹が曲がって製品にならない木は木質チップの加工場へ持ち込み、需要が高い木質バイオマスエネルギーの活用に役立ててもらう。燃料で動くチェーンソーは、燃焼効率がいい機種を使用。経年劣化により5年ほどで買い替え時期が来るため、より環境効率が良くなる製品を選ぶ。
自然相手の林業は、一つ一つの選択や工程が環境保全に直結する。若手の感性を磨きつつ技術を継承しながら、貴重な地域の財産である森林を未来に紡いでいく。
株式会社エナテクス
(倉吉市清谷町、福井利明社長)
エネルギー消費を「見える化」
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エネルギーなどの使用状況を分析し、運用改善を提案 |
脱炭素社会の実現に向け、太陽光発電など環境保全事業を多岐にわたって展開し、地域新電力事業の立ち上げ準備を進めている。地域で生まれたエネルギーを地域で消費する仕組みを作り、エネルギー自給率を高めることが狙いだ。
また、建物のエネルギー消費を「見える化」するエネルギー管理システムBEMS(ベムス)を開発。建物の運用改善により、快適な空間を保ちつつ無駄なエネルギー消費を削減する「エコチューニング(R)」と合わせて、「省エネ」と太陽光発電などの「創エネ」により、エネルギー収支を限りなくゼロに近づけ、温室効果ガスの削減を目指している。
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