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vol.160 進む「食品ロス削減」対策
2022.10.25
食べ残しや売れ残りなどの理由で、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品ロス。日本国内では近年、減少傾向にあるものの、大量の食品廃棄に大量の資源が使われ、莫大なコストもかかる。焼却や埋め立てでの廃棄は環境に悪影響を及ぼす。今、食品ロス削減に向け、官民でさまざまな取り組みが進む。一人一人の小さな行動の積み重ねが、大きな成果につながるはずだ。
適正な消費で環境負荷減を
公立鳥取環境大環境学部 門木秀幸准教授に聞く
−日本の食品ロスの現状は。
日本全体の食品ロスの推計は2020年度で522万トン。このうち家庭からは247万トン、事業所からは275万トンだ。国は家庭、事業所とも2000年度比で30年度末まで半減を目指し、30年度の目標は489万トン。年々食品ロスは減っており、目標に近づいている。鳥取県内では家庭の生ごみのうち、食品ロスは30%を占める。19年度の食品ロスは約1万トンで、県内でも1人年間約20キロを廃棄していることになる。これは全国並みだ。
−食品ロスを減らすメリットは。
日本は食料の6割を海外から輸入しているため、輸送距離が長くエネルギーの消費、二酸化炭素の排出につながっている。また、ごみ処理のコストは年間で2兆1290億円、国民1人当たり約1万7千円もかかっている。食品の適正な消費が環境負荷を減らすことになる。
また、世界の飢餓人口は8億人を超え、日本でも子どもの6〜7人に1人は貧困と言われる。さらに世界の食糧支援量は440万トンで、日本の食品ロスの方が多い。食品ロスを貧困層への支援に活用することも求められる。そもそも生き物の命をいただくという私たちの道徳観の問題でもある。
−食品ロスを減らすため家庭や事業所での対策は。
鳥取県では家庭などで余った食品などを寄付するフードドライブ事業が活発だ。特に鳥取市中央人権福祉センターによる地域食堂や生活困窮者などへのサポートでは21年度に2万7千キロが集まった。また、県のとっとり食べきり協力店事業には105店舗が登録している。ただし、認知度が低く、店舗のメリットが見えにくいのが課題。事業者は商品を売り切る努力が必要で、消費者はそれに対する理解が求められる。消費者は商品の手前どり、消費期限や賞味期限の理解、必要なものだけ購入、そしてフードドライブへの参加により食品ロス削減に貢献できる。
−一人一人が心がけることは。
もともと命があったものを人間が生きるために食べている。食べ物に敬意を払うことが重要だ。
鳥取県内の現状 県、自治体も取り組みに力 家庭の協力不可欠
鳥取県内の自治体は全国に先駆けて、食品ロス削減に力を入れてきた。鳥取県は2014年度、「とっとり食べきり協力店」の制度をスタート。飲食、宿泊、小売りの105の店舗や事業所(8月末現在)が小盛りメニューの導入などで協力する。
16年に発足した「全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会」に、県と県内6市町が参加。各自治体は連携し、10月の食品ロス削減月間を中心に広報を展開している。
7月には県と県内16の自治体などが、余剰食品を募る「フードドライブ」を実施。来年1月にも開催しようと、準備を進める。9、10の2カ月は県が鳥取県生活協同組合に委託したフードドライブが行われた。
また、県は本年度、飲食店で食べきれなかった食事の持ち帰りを促進しようと、持ち帰りバッグを導入する飲食店に対して補助金を用意している。
一方で、食品ロスの47%は一般家庭から出され、飲食店といった事業所だけではなく家庭での取り組みも欠かせない。19、20年度に県内で行われた調査によると、家庭から出されるごみの36.2%が生ごみで、さらにそのうちの30.3%が手付かず、もしくは食べ残しとして捨てられる食品だった。
家庭でできる食品ロスの削減策として消費者庁は、17年度に徳島県で行った実証実験を基に、捨てることになった食品を計量し、記録することの実践を呼びかける。
地域を支える環境(エコ)活動
北溟産業有限会社
(倉吉市岡、中川優広社長)
漂着ごみ回収にドローン活用
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海岸でのごみ回収の効率化を目指すドローン |
地域の清掃活動などで出た海岸の海洋漂着ごみの回収を行いながら、懸案だった崖下などのごみの回収に大型ドローンを使用して作業の効率化、省力化に取り組む。
海岸の漂着ごみの回収依頼が増える中、岩場など人が入り込めない場所での回収をどうにかしたいと、ドローン開発に着手。今年7月にごみ運搬の実証実験を行い現在、最終調整を行っている。
ドローンは縦横約1.5メートル。連続10分程度の飛行ができ、最大15キロの荷物を運ぶことができる。
中川社長は「実証実験は成功裏に終わった。今後は実践を重ね、増える漂着ごみの回収効率を上げていく。きれいな海岸を増やしていきたい」と話す。
株式会社あかさきグループワールドワイド
(琴浦町八幡、岡崎博紀社長)
廃棄煮汁利用した液肥開発
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想像を超える大きさの紅はるかを収穫し、満面の笑みを見せる社員 |
昨年夏、食品工場から廃棄されるカツオの煮汁や海藻エキスを主な原料に、世界で初めて培養した液肥「エコバランス」が完成。今年から琴浦町の畑で試験的な栽培を始めた。
この液肥は、農薬や過剰肥料による汚染土壌を回復・蘇生させる“救世主”として期待。植え付けや液肥濃度を変えて試験的に取り組むことで、より効果的に作物の栽培に役立ててもらう。
今年はブロックごとに希釈倍率を変えてサツマイモ「紅はるか」を育てていて、同社員がそれぞれ収穫。出来具合や大きさなどを調査し、今後に生かしていくことを共有した。岡崎社長は「少しでも生産者の方に選んでもらえるような肥料にするためにしっかりと実験していく」と話している。
気候変動時代を生きる
「負荷をなくす」方向へ転換
持続可能な開発目標(SDGs)と聞いて、何を思い浮かべますか?何となく「良いことをする」ことだと思っている人が多くないでしょうか?実は、悪いこと(負荷)をなくすのがSDGsなのです。
SDGsの目的は、2030年までに持続可能な世界をつくることですが、地球を何個分も消費する人類の現状は、まるで立ちはだかる氷山に衝突しそうな勢いで突っ走っている、燃費の悪い持続不可能な豪華客船です。私たちは今、衝突を回避できるまでギリギリの地点にいます。問題は文字通り氷山の一角で、複雑に絡み合い水面下に山積し、巨大な塊として存在します。
例えば目標1「貧困をなくそう」で、すぐに成果が出てイメージアップにつながりそうな寄付や直接支援金だと、目の前の山は避けられても、一時しのぎにしかならず、水面下の氷山に座礁するかもしれません。目標1ではターゲット1.b「ジェンダーへの配慮」や、1.5「気候変動によるダメージ軽減」などもスコープされ、貧困そのものよりもそれが起きる構造にメスをいれる指標がつくられているように、問題を起こしてきた私たちが社会を変革する、それがSDGsです。
「急がば回れ」で、まずは想像力のフレームを面的にも時間的にも広げて、自身や自社の活動による負荷が社会や環境や将来に与える影響を把握することから始めましょう。胸に着ける丸い17色のバッジは、「良いことをやってます」ではなく、「負荷に気づいたので変わります」の印です。(ECOフューチャーとっとり 山本ルリコ)
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