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vol.151 脱炭素社会の実現へ カーボンニュートラルに挑む自治体
2022.1.31
地球の温暖化を防ぐため、世界140カ国以上が今世紀半ばの脱炭素を目指している。2050年までに生活や産業によって排出される温室効果ガスの量を、森林の吸収量などを差し引いて実質ゼロにすると表明した全国の自治体は昨年12月28日現在、40都道府県をはじめ514。鳥取県内では表明順に北栄町、鳥取県、南部町、米子市、鳥取市、境港市、日南町の7自治体が「2050年二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロ表明自治体」として、長期ビジョンを持って脱炭素社会の実現に挑んでいる。
情報を理解し賢く使う
県生活環境部 中村吉孝参事監に聞く
国に先駆け、2020年1月にカーボンニュートラルを表明した鳥取県。30年度の県内温室効果ガス削減率を13年度比で現行の40%減から60%減に見直す方針だ。達成への道筋などを県生活環境部の中村吉孝参事監に聞いた。
−鳥取県のCO2排出量の現状と見通しは。
一世帯当たり約6千キロと全国平均の1・5倍となっているのは家庭の暖房に使う電気・灯油や車の利用が多いことも一因ではないか。県全体では18年度が約413万トン、20年度が約345万トン。基準年の13年度から20年度の削減率は27%と全国の18%を上回っている。50年度のカーボンニュートラルに向け、30年度時点では60%削減(国の目標値46%削減)を達成すべき到達点と考え、取り組みを加速させたい。
−対策の方向性は。
再生可能エネルギー(再エネ)の導入と省エネルギーの促進。建物への太陽光発電設備の導入や建物の断熱・省エネ化、電動車への乗り換えが重点取り組みの3本柱と考えている。
−具体的には。
再エネ導入には、住宅や事務所の屋根を発電事業者に無償貸与し、初期投資なしで太陽光発電システムを設置するPPA(電力販売契約)モデルを推進したい。発電した電力を屋根貸しした企業や家庭などが安く購入するビジネスモデルで、来年度は県有施設でも実践し、住宅を含め民間に普及するよう考えている。ここで重要なのは県内の地域新電力が中核となることでエネルギーの地産地消を進め、経済の域内循環にもつながることだ。また、県独自の高断熱・高気密の性能基準を満たした「とっとり健康省エネ住宅(ネスト)」とその補助制度は全国の先進事例としても注目されており、新築だけでなく改築にも運用を広げていきたい。
−県民の合意形成をどう図るか。
県民一人一人が気候変動に関する情報を正しく理解し、自分事として取り組みを進めることが重要だが、意識調査の結果を見ても、ライフスタイルを変えようとしている人とそうでない人の二極化の傾向は否めない。我慢して省エネしましょうと言うつもりはない。暮らしの工夫や便利な技術を使うことで、賢く快適な生活を維持しながら脱炭素社会をいかに構築していくかがポイントになる。
手厚い助成で町民支援 北栄町(19年12月表明)
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CO2排出削減などを主目的に建設された北栄町の風車 |
県内の自治体で初めてカーボンニュートラルを表明。9基の風力発電施設の運営や太陽光を利用した発電事業のほか、「バイオマス産業都市」認定などで“環境に優しい町づくり”を推進する。
固定価格買い取り制度(FIT)を活用した風力発電の売電収入の一部を「風のまちづくり事業」としてさまざまな対策に活用してきた。一般住宅対象の助成は県内自治体の中でも手厚く、断熱改修などの工事費用の一部を助成する「住宅省エネルギー改修促進補助金」は計72件、太陽光や蓄電池、薪(まき)ストーブなどの設置費用の一部を助成する「創エネルギー等設備設置費補助金」はこれまでに354件の利用があり、環境や健康住宅に関心のある町民を支援している。
また、来年度からは地域新電力会社を通して、公共施設などで地域の自然エネルギーの利用を計画。木質バイオマスボイラー導入事業も今春に稼働予定で、地球環境の保全と温暖化防止の推進に取り組む。
太陽光発電設備を導入 南部町(20年3月表明)
2050年CO2排出実質ゼロを表明することで、環境問題に率先して取り組む姿勢を明確にした。本年度は民間企業と連携し、法勝寺、天万の両庁舎に、使用する電気の一部を太陽光による自家発電で賄う設備を導入する。
太陽光パネルを屋根に搭載したカーポートと蓄電池を両庁舎の敷地内に設置する計画。同町や企業などの出資で16年に設立された新電力会社「南部だんだんエナジー」(同町福成)が、環境省の補助金を活用して進める。町は初期費用を負担せずに太陽光発電設備を導入でき、非常時の電気を確保する利点もある。
法勝寺は約50キロワット、天万は約100キロワットの規模で、不足分には、再生可能エネルギーとして生み出された電気を、同社を通じて外部から調達し充てる。
23年度にかけて、町の他の施設7カ所にも導入する方針。並行して町は宣言を契機に、ゼロカーボンを住民も含めた町全体の取り組みに広げたい考えだ。
環境ビジネスで活性化 鳥取市(21年2月表明)
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青谷町いかり原太陽光発電所 |
第3期鳥取市環境基本計画(2021〜30年度)に、30年度の温室効果ガス排出量を13年度比35%減の約116万トンにする目標を掲げ、再生可能エネルギーの利用促進、環境教育の拡充などに取り組む。
青谷町内に最大出力約610キロワットの太陽光発電施設を設置し、発電している。また、市も出資した自治体新電力が21年度から再エネ100%の電気料金プランを開始し、地域への導入を図っている。一方、農地での微生物発電の実用化に向けて研究するなど、地産地消型エネルギーと環境ビジネスの創出を探り、地域経済の活性化につなげたい考えだ。
さらに、中心市街地と中山間地域などの各地域生活拠点を公共交通で結ぶ「多極ネットワーク型コンパクトシティ」実現に向け、低公害バスなどの普及を検討するなど、まちづくりの視点からも脱炭素にアプローチする。
気候変動時代を生きる
持続可能に寸法直し
今月初め、2020年の国勢調査を基にした「集住率」が話題になりました。移住者対策など全国で少子化・人口流出対策が取られていますが、その成果を人口ではなく、人口密度で考えようというのが集住対策で「コンパクトシティー」と同義ともいわれます。
都市機能を集中させて資源を有効活用するため、公共交通を計画的に配し利便性を高めるなどして空洞化を防ぎ、持続可能にする取り組みで、日本では富山市が有名です。そのモデルがドイツのフライブルクなどヨーロッパの持続可能なまちづくりです。
ドイツの多くの都市では、新しい住宅地はその都市の拠点駅から公共交通機関で30分圏内にする条件があります。さらに各戸から徒歩10分圏内に生活必需品の小売店舗、新たな雇用を創出することのほか、エネルギー、廃棄物計画も高効率化されます。
農村の宅地転用はほとんど認められず、都市機能は集約しながら、食糧を供給する農村と有機的につながり、景観を守りつつ経済循環を促すように仕組まれることで、地域の持続可能性を担保するようになっています。このような都市の概念は新しい住宅地でなくとも共有され運用されているので、道路などの社会インフラ整備や維持・更新費用が削減でき、教育や福祉にも予算を有機的に振り分けできます。職住接近でマイカー通勤が少なく、歩く機会が多いことは温暖化対策と健康増進も兼ねることができます。
「日本は法律も環境も文化も違うから今さら無理」との声も聞かれますが、持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限2030年までにはあと8年、ゼロカーボン社会実現の2050年までには28年あります。広がり空洞化した地域を人口減少に合わせて寸法直しをするには、遅すぎることは言い訳にはなりません。
(ECOフューチャーとっとり 山本ルリコ)
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