日々の暮らしの中で、住まいのエネルギー消費を減らすことが二酸化炭素(CO2)削減を大きく促す。我が国の家庭のエネルギー消費の約3割を占めているのが冷暖房。高断熱・高気密を実現することで、冷暖房効率に優れた性能を備えた省エネルギー(省エネ)住宅は、地球に優しいだけでなく、快適で健康的、経済的な暮らしができることが分かっており、家づくりの重要なキーワードとなる。
高断熱 高気密 NE−ST(ネスト住宅)
県民の健康を守る家
鳥取県は、県民の健康維持・増進とCO2削減を目的に、戸建て住宅を新築する際の県独自の省エネ住宅基準を策定。基準を満たす住宅を「NE−ST(ネスト)」に認定し、助成している。
2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指す県のモデル施策。断熱性や気密性に優れ、年間を通じて冷暖房の使用を抑えることができる住宅を認定する。昨年7月から認定の受け付けを開始し、今年11月末までに200件を認定した。
欧米に比べ遅れていた日本の省エネ住宅基準を独自に引き上げた。断熱性能と気密性能を3段階のグレード(最低限・推奨・最高)に分けて基準を設定。欧米並みの省エネ基準と同等か、それを超える住宅が実現できる推奨レベルでは、国の省エネ基準で建てた場合と比べて初期費用が120万円多く掛かるが、年間5割の冷暖房費削減が見込めるため、15年でペイできる試算がある。
ネストのような高断熱・高気密の住宅は、冷暖房費の削減だけではなく、結露によるカビの発生を抑え、住人のアトピーやアレルギーの改善効果も期待される。また、家中の室温を20度程度に保つことで、鳥取県内でも多いヒートショック死を予防する「命を守る家」として注目される。
県は2030年までに、県内の新築住宅におけるネストを標準化したい考え。
住み心地は?
ネスト住宅を新築し、今年入居した家族に住み心地などを聞いた。
どこへ行っても快適な空間 循環システムと調湿機能
倉吉市 尾崎 翔吾さん宅(木造2階建て、3人家族)
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冬でも裸足で過ごせる |
地球環境が大きく変化する中、将来を見据えて長く快適な家に住みたいと、高断熱・高気密に優れた「夏涼しく、冬暖かい家」を新築。今年7月末から入居する。
以前は築20年の賃貸アパートに入居。夏は暑くて冬は寒く、窓の結露もあり、健康で省エネな住まいを熱望していた。
新居は、全館冷暖房を家庭用エアコン1台で行い、家中どこにいても寒暖差がなく室温が一定に保たれるほか、窓を開けなくても換気ができる循環システムと調湿機能を整える。光熱費は以前より、月約5千円も減った。
家族が大好きな場所は南からの陽光がたっぷり入る広々としたリビング・ダイニング。「新居では子どもも風邪をひかず、半袖と裸足で元気いっぱいに走り回っている。家の隅々までどこへ行っても快適な空間」と、毎日家族で健康的に過ごせる家を実感し、笑顔があふれている。
温度差がなく過ごしやすい 年中24時間の全館空調
鳥取市河原町 坂本 賢亮さん宅(木造2階建て、5人家族)
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明るく開放的なリビング |
「これからずっと暮らす家だから」と、工務店の勧めもあり、家族の健康と省エネを両立できる断熱性能の高い家を希望した。新築に入居して半年余りがたつ。
屋根に太陽光発電システムを設置し、太陽熱で暖められた空気を家の各所へ送るOMXシステムを導入した。年中穏やかな室内環境を保てる24時間の全館空調で、壁掛けエアコンは不要。光熱費の負担はアパート暮らしのときより減った。
約2メートル四方の大きな窓から自然光を取り込めるリビングは明るく開放的だ。暖房には時々、こだわりで設置した薪(まき)ストーブも活用する。
「家の中は朝昼晩の温度差がなく、本当に過ごしやすい。吹き抜けにしたので冬は2階も暖かい」と満足感を覚えている。アパート暮らしのときにはほとんど見られなかった、家の中を元気に走り回る子どもたちの活発な姿に驚いている。
木の住まいフェア オンライン開催中
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オンラインで開催中の「木の住まいフェア」 |
人に優しい木の住まいづくりを進める、鳥取県木造住宅推進協議会東部支部実行委員会は「木の住まいフェア2021」をオンラインで開催している。360度バーチャル展示場や無料相談などで、木造住宅の魅力を発信。抽選でプレゼントが当たる県産材キーワードクイズも実施中。31日まで。
県東部の11社が出展。サイト上には各社のホームページのリンクを掲載し、中にはバーチャルで、モデルハウスの世界が体験できるものもある。県建築士事務所協会の会員による無料相談では、省エネ住宅や耐震診断などの幅広い内容に対応。木造住宅に関する補助制度など、住まいに関するさまざまな役立つ情報を得ることができる。
DIY断熱ワークショップ (北栄町)
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断熱の方法などを学ぶ子どもたち |
北栄町は、町内で排出されるCO2を実質ゼロにする取り組みの一つとして「断熱」の意義を町民に伝えるため、DIY断熱ワークショップを展開している。
2回目の開催となった今年2月は、ほくほくプラザ図書室(同町大島)を暖かくする「ほくほく?ほかほか大作戦」と銘打って実施。町民ら24人が町内の専門家に教わりながら、壁に断熱材を入れたり、天井断熱をしたり、内窓を設置するなどの作業を通して、断熱の方法と重要性を体感した。
町環境エネルギー課の担当者は「断熱についてもっと関心を深めてもらい、既存の住宅でも省エネを推進してほしい」と話し、来年度のワークショップの実施も計画している。
住まいの快適性を決める「窓」選びは重要!
熱を伝えにくい樹脂製 県内で需要高まる
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一年中快適な暮らしに導く樹脂製の窓 |
北栄町は、町内で排出されるCO2を実質ゼロにする取り組みの一つとして「断熱」の意義を町民に伝えるため、DIY断熱ワークショップを展開している。
2回目の開催となった今年2月は、ほくほくプラザ図書室(同町大島)を暖かくする「ほくほく?ほかほか大作戦」と銘打って実施。町民ら24人が町内の専門家に教わりながら、壁に断熱材を入れたり、天井断熱をしたり、内窓を設置するなどの作業を通して、断熱の方法と重要性を体感した。
町環境エネルギー課の担当者は「断熱についてもっと関心を深めてもらい、既存の住宅でも省エネを推進してほしい」と話し、来年度のワークショップの実施も計画している。
気候変動時代を生きる
エネルギーを無駄なく使う
寒い冬を迎え、輸入燃料の高騰に市民生活は打撃を受けています。燃料使用量を抑えることは、日本ではどうしても“ガマン”だと捉えられがち。本来、省エネとはエネルギー使用の効率化であり、社会全体でエネルギーを漏らさず無駄なく使うことです。
「暖房なしでは寒い」「ガラスを触ると冷たい」といった状態は、エネルギーを漏らしている証拠で、高い暖房費を燃やしていることと同じです。少なくとも省エネ政策とは、その漏れ穴をふさぎ、貴重なエネルギーを効率的に利用できるよう、暮らしや地域社会の仕組みを整えること。暖房の温度を下げたり、使う時間を減らそうと促したりすることではありません。
世界保健機関(WHO)の「住まいと健康」ガイドラインは、冬季の室温を18度以上とするよう強く勧告していますが、これは家全体の断熱ができていれば、そう難しいことではありません。しかし、家全体を暖める暖房ではなく、こたつなど採暖を中心に発達してきた日本の家屋では特に浴室、脱衣所、トイレなどは18度どころか、外気温以下のことも珍しくありません。この住宅問題を放置したままでは「健康のために暖かくして過ごしましょう」「温度差があると危険!」というのは、高い燃料代をさらに使えというようなもので、省エネや節約と矛盾し、家計にも響きます。
そこで福祉の視点で、緊急支援策として燃料費を補てんする自治体があるのは短期的には仕方がないかもしれません。しかし、今後も輸入燃料価格の上昇が予測される中、来冬も同じ補てんを実施する自治体があるとすれば、それこそ予算の漏れ穴をふさぐ努力を怠っているといえるでしょう。
CO2を排出する化石燃料に頼って気候災害の増加に加担するのではなく、“壊れない暖房器具”ともいわれる断熱住宅に住み、燃料高騰におびえることのない暮らしをしたいもの。同じ払うなら、石油王にではなく、地元の工務店やCO2を増やさない地域の再エネ事業などを通じてお金を循環させたいものです。その好例が鳥取県のNE−ST(ネスト)住宅で、日本中から注目される理由でもあるのです。(NPO法人ECOフューチャーとっとり 山本ルリコ)
地域を支える環境(エコ)活動
株式会社白兎環境開発
(鳥取市千代水4丁目、奥田貴光社長)
太陽光発電パネルを再資源化
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重機で破砕され、リサイクルされる太陽光発電パネル |
産業廃棄物と一般廃棄物の処理・リサイクルを手掛ける中で、今後増加が見込まれる太陽光発電パネルの適正なリサイクルに注力する。
再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の後押しで飛躍的に普及した太陽光発電。同社でも建物の解体などに伴いパネルが搬入されるケースが増えた。同社ではパネルを破砕して焼却・焼成し、路盤材の原料としてよみがえらせる。フレームなどの非鉄金属は原料として再利用。焼却・焼成工程で生じるばいじん以外はすべて再資源化する。リサイクル率80%以上という高い条件をクリアし、太陽光発電協会が公表する産廃中間処理業者リストにも掲載された。
一般的なパネルの製品寿命は25〜30年程度とされ、同社の役割も次第に重みを増す。再エネの拡大を陰で支える社会インフラとして、資源循環をリードする取り組みを続ける。
有限会社オフィス・チムニィ
(鳥取市商栄町、米花美枝子取締役)
エコな暖房器具、癒やし効果も
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優れた暖房能力を持つ薪ストーブ |
優れた暖房能力を持つ薪ストーブ。CO2を増やさない(カーボンニュートラル)生活が意識される中、注目を集めている。
木材を使うということで環境に良くないと思われがちだが、燃料の薪に間伐材や建築廃材を使用することで、環境循環型のエコな暖房器具としての顔を持つ。
暖房能力も高く、遠赤外線によるふく射熱は体の芯から温めてくれるので保温効果は抜群。また、調理の熱源として使えるタイプもあり便利だ。
同社では世界各国のストーブを販売。炎のゆらめきは癒やし効果もあるとして、最近は「炎をきれいに見せるタイプ」がトレンドだという。担当者は「暖房器具というより家の心臓。自然と人が集まり、家族団らんの時間を楽しくしてくれるアイテム」とその魅力を話す。
株式会社赤碕清掃
(琴浦町八幡、岡崎博紀社長)
光合成細菌で汚染土壌を回復
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培養中の光合成細菌を確認する岡崎社長 |
今夏、世界で初めて培養に成功し、特許取得した光合成細菌を使用した液肥「エコバランス」の生産、販売に着手した。試験では野菜や果物の収穫に大きな成果が出ており、農薬や過剰施肥による汚染土壌を回復・蘇生させる“救世主”として期待される。
食品工場から廃棄されるカツオの煮汁や海藻エキスを原料とし、琴浦町の工場で菌の培養と液肥化作業を行っている。他の光合成細菌とは違い脱窒、脱リンが特徴的で、土壌微生物が真冬でも凍ることなく活動し続けるなど分解力に優れており、作物の収穫量や品質の向上が見込める。
岡崎社長は「大学の教授でも解明できない不思議で優れた細菌。“土と植物の漢方薬”として生産者のお役に立てれば」と話す。
株式会社ホームズ
(倉吉市八屋、牧井健一社長)
家づくり通し「豊かな未来」を
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自然と家族が集う、健康に配慮した温(あ)ったか省エネ住宅 |
持続可能な開発目標(SDGs)を企業理念の柱に据え、家づくりを通じて「健康」と「豊かな未来」の実現を目指す。2016年から5年連続で「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー」を受賞、「住む人が心から温まる家づくり」をモットーに高機能な省エネ健康住宅を提案する。
心地よい住環境を保つため、温度や湿度を絶妙なバランスでコントロールする独自の仕組みを持ち、寒暖差のある季節でも一定の快適な空気が循環。さらに高断熱化で省エネ化と家全体の温度差をなくす「温熱的バリアフリー」を実現する。
牧井社長は「長く住める家づくりを通じて、地域社会の活性化や自然エネルギー環境を持続していける街づくりを目指す。それが社会貢献の支えにもなる」と話す。