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vol.125自治体が挑むエネルギー政策 バイオマス発電の取り組み
2019.2.28
自治体が地域エネルギー政策に積極的に取り組んでいる。すでに電力の発電や小売などが自由化され、2020年度に「発送電分離」の実施が予定されている中、再生可能エネルギーの利活用が新たな局面に入る。今回は、地域の持続可能な循環型社会構築に取り組む、北栄町と米子市のバイオマス発電を紹介する。
地域資源で循環型社会へ
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議論を重ねる「北栄町バイオマス活用推進協議会」 |
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木質チップの含水量を確かめる「森の四季」の蔵増社長 |
新たな再エネに間伐材を
北栄町「バイオマス産業都市」認定
北栄町は昨年11月、バイオマスを活用した地域の産業化を目指す「バイオマス産業都市」として、国の認定を鳥取県で初めて受けた。木質バイオマス燃料の製造から利活用までを行う資源循環システムを構築するとともに、将来的には町の電気や熱供給を行う新電力会社を設立して、CO2の削減や地域の活性化につなげていく。
木質バイオマス
これまでも大規模な風力発電や民間の太陽光発電の普及促進など、再生可能エネルギーの取り組みを積極的に推進してきた同町。さらなる地球環境の保全と温暖化防止の推進を鑑み、地域資源を有効活用しエネルギーの地産地消をより促進していくため、木質バイオマス事業に乗り出した。
2016年から外部の有識者や町内の事業者で構成する「北栄町バイオマス活用推進協議会」を発足して準備を進めた。産業都市認定を受ける直前には、同事業への補助金交付を受け、弾みがついた。
電力も北栄産で
来年度から3カ年計画で北栄町B&G海洋センターに木質バイオマスボイラーを設置して温水化を図り、年間利用期間を現在の2倍に延伸する取り組みを行う。
原料から燃料製造、利活用まで、すべて町内資源で賄うことが理想。燃料は果樹園の剪定(せんてい)枝や、里山保全により生じる間伐材を原料に、県中部森林組合や民間事業者が作る木質チップを使用する。民間事業者、チップリサイクル森の四季の蔵増宏彦社長(33)は「今まで捨てられていた枝木が燃料になり、地球温暖化対策にもつながる。町民の意識が高まればいい」と期待する。
将来は、ドイツの公共インフラを整備・運営する自治体所有の公益企業「シュタットベルケ」を事業モデルとした新電力会社を設立して、自立分散型エネルギー社会の構築を目指している。10年かけて取り組む構えだ。
町住民生活課地域エネルギー推進室の山本幸司室長(41)は「まだまだ課題もあるが、地元経済を地元エネルギーで回すことができる。住民の健康づくりにも役立てたい。町民に恩恵を感じてもらう事業にしたい」と意欲を示した。
家庭ごみが電力に 米子市 グッドライフアワード受賞
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ごみ処理施設で再生可能エネルギーの発電を行う米子市クリーンセンター
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廃棄物をエネルギーに変える蒸気タービン発電機 |
米子市は昨年11月、環境省主催の「第6回グッドライフアワード」の自治体部門賞を受賞した。同市など官民が出資する新電力会社「ローカルエナジー」(米子市、加藤典裕社長)と取り組む再生可能エネルギーの地産地消が高く評価された。
同市がバイオマス発電で作る電力を同社が買い取り、公共施設を対象に売電するとともに、小売電気事業者に卸して法人・一般家庭に電力販売する循環システムが、全国的にも先進的な取り組みとして評価につながった。
同市は、2002年からごみ処理施設「米子市クリーンセンター(米子市河崎)」に蒸気タービン発電機を整備し、発電設備として利用している。同発電機は、廃棄物焼却時に発生する熱を利用して蒸気を作り、この蒸気を使ってタービンを回してモーターを動かし発電する仕組み。ごみ総量の約3分の2をバイオマス資源として利用している。
同市によると、17年度の年間総発電量は22・5ギガワット時で、約6900軒の年間消費電力量に相当する。
当初は作った電気を同センター内で使用し、余った電気を既存の電力会社に売電していたが、2015年12月の新電力会社設立から、市が発電したものを新会社が買う事業スキームで、地域の電力を地域で消費する形を確立した。
同市市民生活部環境政策課の高塚貴次長(59)は「クリーンセンターで家庭ごみを燃やして発電し続けているので、安定したベース電源の供給につながっている。再生可能エネルギーの地産地消によるCO2の削減と、地域内での資金循環という取り組みが評価された」と受賞を喜んでいる。
気候変動時代を生きる
住宅の断熱化と介護対策
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ドイツでは古い住宅を断熱リフォームするのは一般的 |
20年ほど前、私がドイツに住んでいたころ、最初は出窓かと勘違いするほど、サッシの淵から外壁まで約25センチもある住居の壁の厚さに驚きました。ほかにも、木製サッシと複層ガラスで防音性と断熱性に優れた窓や、浴室や寝室など各部屋の温度差が少なく寒さを感じない造りなど、外気温0℃が日常のハンブルク市郊外では、標準的集合住宅の建築構造でした。
いつまでも住み続けたいくらい快適なドイツの住環境でしたが、鳥取に戻ってからは改めて壁や窓の薄さと結露、カビが当たり前の冬に、寒さを通り越して悲しくなりました。
調べてみると、欧米では建物の省エネルギー化は法定ですが、日本ではあくまで努力義務に過ぎず、一番省エネ性能が高いといわれる「次世代省エネルギー基準(1999年)」でも、先進国や韓国と比べて低いと分かりました。同基準は、2020年に適合義務化の予定でしたが、消費増税などを理由に見送りとなりました。
日本では年間、交通事故死者数の約4倍の1万7千人がヒートショック(急激な温度変化により起こる心筋梗塞や脳卒中などの血管トラブル)で死亡しています。また、その約8倍は命が助かっても後遺障害で介護が必要な状態であるといわれており、適合義務化見送りで、日本の平均介護期間は今後も減りそうにありません。
「人生100年時代」に、いまだ9割以上といわれる無・低断熱の既存住宅に対して、介護リフォーム補助金などに上乗せして性能向上に取り組めば、増え続ける要介護者対策となるほか、建築需要拡大に伴う経済効果で、税収増が歳出を補うのではと思っています。冬の寒さが厳しい鳥取への移住定住の観点からも、住宅の断熱化は「住み続けたい地域」へ発展する可能性を秘めています。
(鳥取県地球温暖化防止活動推進センター・山本ルリコ)
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