地球温暖化の防止に向け、世界各国が二酸化炭素(CO2)の人為的排出源の一つで、環境負荷の高いガソリン車の新車販売を規制し、電動車の普及を目指している。日本でも2050年に温室効果ガス排出実質ゼロを実現するため、国内で販売する新車について、30年代半ばにガソリン車をなくし、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などの電動車にする新たな目標を政府が検討中だ。
性能や経済的メリットで普及 「各家庭で充電」の時代に
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V2H(車から家庭に電力を供給する装置)を併用したEVの蓄電池としての活用にも注目が集まる |
EVやHVといった環境に優しいエコカーとも呼ばれる電動車は近年車種が増え、幅広い世代に支持されている。鳥取県内でも関心が高まっているが、普及率はまだ低い。県内の動向を探った。
県によると、EVやHVなどの電動車の普及率は、2020年3月現在で9・6%。全国平均(12・1%)と比べるとわずかに低いが、着実に普及は進んでいる。県内の複数の販売店によると、売れ行きは年々上昇。新車だけでなく、中古車の需要も高い。車種によっては、昨年の倍以上の受注がある。蓄電池などの機能があり、防災面での活用も普及を後押しする。
顧客がエコカーを選ぶ理由は、環境意識の高まりだけでなく、経済的なメリットが大きい。ガソリン代の節約など“家計に優しい車”として購入する例が多く、減税や補助金の対象となっている点も見逃せない。企業イメージの向上につながるとして、社用車に採用する企業も増えている。
エコカーの魅力の一つに、優れた加速性能が挙げられる。走り出しは滑らかで、静かな走行音はドライバーの負担を軽減する。ライフステージに合わせて、車体の小型化を検討する人でも、先進技術が搭載されているため、格落ち感はないという。
購入者からはランニングコストの削減に加えて「長距離運転時のストレスが緩和された」「静粛性や走りの良さに感激した」との声がある。中には、燃費を伸ばしたいという意識から急加速・急ブレーキを控えることで「安全運転になった」と話すユーザーもおり、環境と社会の両面で優しい運転につながっているといえる。
一層の普及にはインフラ整備も欠かせない。県内のEV充電設備は259基で、人口当たりの設置数は全国1位。街中に急速充電器が増えれば、観光誘致につながるとともに、環境に配慮した土地柄として地域イメージも向上するが、県脱炭素社会推進課は「今後は各家庭で充電する時代になる」と見込む。
昼間は自宅の太陽光パネルで発電した電力をEVにため、夜間はEVの電力を家庭に供給することも可能。“電力の自給自足”で、地球に優しい暮らしにつながる。50年のカーボンニュートラル達成に向けて、県の担当者は「今後は家庭への太陽光発電と蓄電できる電気自動車の導入の加速が予想される。初期投資が抑えられるサブスクリプション(定額制)など、さまざまな選択肢の検討が重要だ」と話す。
エコカーを身近に感じてもらう工夫も必要。米子市内の販売店は「今はエネルギーの転換期。ハイブリッドも含めて30年代に向けて走行時のCO2排出をできるだけ減らし、しなやかに変化することが重要」と強調する。
小回り利き観光で活躍 ジオコムス
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海岸線の観光エリアを走るジオコムス |
CO2を排出しない超小型EV「ジオコムス」が、山陰ジオパークエリアの観光ツールとして活躍している。エコな気持ちで心地よい海風を感じながら、日本海の絶景を楽しめる人気のアクティビティーだ。
コンパクトな一人乗りEVに山陰海岸ならではのカニやイカなどの海の生き物をラッピングした特別車両。小回りが利いて、ゴーカート感覚でゆっくりと観光できる。
岩美町と鳥取砂丘の3カ所にステーションを設置し、周辺エリアを周遊できるほか、12月20日まで、鳥取和牛や松葉ガニなどの賞品が当たる「謎解き宝探し」イベントを実施中。
公用車のEV化進める 鳥取市環境事業公社
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自社用充電ステーション設備も導入して、公用車のEV化を進める |
鳥取市環境事業公社(鳥取市秋里)は、事業で使用する車両の低公害車、EVへのシフトを進めている。
エンジンをかけたまま「ストップアンドゴー」を繰り返すごみ収集の業務特性上、低公害車への転換は必須と捉える。77台あるごみ収集車両のうち、70%は排ガス規制をクリアした低公害車へと順次更新してきた。
また、2019年の省エネ化の機能をふんだんに取り入れた新社屋完成のタイミングで、公用車もEV化。同時に、敷地内に自社用充電ステーション設備も導入した。今後も公用車の更新時期に伴って増やしていく予定。さらに充電ステーションについては、2年後をめどに一般への利用開放を目指す。同公社は「EV化へシフトする世の中の流れに少しでも貢献できたら」と話している。
電動車の給電機能活用 とっとりEV協力隊
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水素エネルギーを使ったFCVで電動アシスト自転車を充電(昨年11月、米子市淀江町) |
EVなどの給電機能を活用しようと、2019年に発足した「とっとりEV協力隊」。EVなどの所有者がボランティアとして登録し、災害による停電時やイベントの際にEVなどから電力を供給する鳥取県独自の仕組みだ。
協力隊には個人や企業などが所有する50台が登録。「脱炭素社会構築に向け、電動車の給電機能について知ってもらいたい」(県脱炭素社会推進課)という普及啓発の役割も担う。
昨年行われた、県西部7商工会のプロジェクト「大山時間」と大山山麓・日野川流域観光推進協議会によるサイクルガイド養成講座「SDGsに対応したエコサイクリング」では、県の燃料電池自動車(FCV)を電動アシスト自転車の充電に使用した。西部商工会産業支援センターの古田貴義係長は「環境に配慮した新しいサイクリングの形として、今後も連携し、誘客に活用したい」と話す。
気候変動時代を生きる
古いバケツの物語
今は昔、水が漏れ続ける古いバケツしかない村がありました。村人は毎日雑巾がけに追われています。
すると「心を育てる雑巾ライフ」という本が出版され、満席の講演会の様子がテレビ放映されると、「雑巾」がトレンド入り。ちまたでは、高級電動雑巾、抗菌雑巾、保湿雑巾、リサイクル雑巾、省エネ雑巾、キャンプ用モバイル雑巾など目的が分からなくなった雑巾製品が続々登場します。
使い捨て雑巾がスーパーで安売りされ始めた頃、ウミガメが雑巾を食べ、生態系問題が発生しました。そこで土に返るバイオ雑巾やマイ雑巾キャンペーン、雑巾拾い活動に助成金。拾った雑巾で子ども環境教育ワークショップ。雑巾アドバイザーは多忙を極めます。
一方、増えすぎた雑巾は水分が多く、可燃ごみでは環境負荷となるので、固形燃料にして発電すると再生可能エネルギー率が高い環境対策の先進地となりました。「視察者増で地域活性化」と思いきや、雑巾を再エネにする自治体が増え、燃料不足。そこで貿易港利用促進に目をつけ、未利用雑巾を輸入。食糧と競合するも、法律上は再エネなのでESG投資でウィンウィン。どんどん燃やします。
しかし、あるとき急に、今までに経験したことがないような勢いで水が漏れだし、膝まで水に浸かった子どもたちを見て「早くバケツの穴をふさごう。いえ、早く蛇口を止めよう!村全体が水浸しになってしまう」と心配する人が現れました。が、「雑巾活動をする人に失礼だ」「雑巾産業が衰退し、失業者が増えたら誰が責任をとる」「穴をふさぐ工事でバケツが崩れたらどうする」「今まで通り一生懸命目の前を拭きなさい」と聞く耳を持ってくれません。心配する人が「あっちの村では、丈夫なバケツ産業で潤っていますよ」と話しても「あっちあっち言うな」と掛け合ってもらえず、水はあふれるばかりでした。
今は昔の物語。あくまでもフィクションです。
(特定非営利活動法人ECOフューチャーとっとり・山本ルリコ)
地域を支える環境(エコ)活動
日産プリンス鳥取販売株式会社
(鳥取市千代水、櫻井誠己社長)
スマート充電を実証実験
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米子店で行われているスマート充電の実証実験(米子市東福原1丁目) |
EV「リーフ」の販売開始から10年余り。環境意識の高まりと技術革新に伴い車の電動化が加速する中、先駆者として普及に努めてきた。
EVは進化を続け、今冬にはスポーツタイプ多目的車(SUV)「アリア」、来年度中には軽自動車の発売も予定される。操作やエコドライブのアドバイスといったユーザー支援に加え、本格的なEV時代の到来を見据え、充電時の電力消費を制御するスマート充電の実証実験にも取り組む。
EVは防災や観光面でも活用が期待される。中津尾直己専務は「変化を恐れていては未来を切り開けない。ディーラーも変わる必要があり、その象徴がEV。この地域と地球環境のために貢献したい」と展望する。
株式会社建販
(鳥取市叶、山内智晃社長)
エネルギーの循環と自立
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地域の木材を利用し、エネルギーの循環と自立ができる家を提案 |
スギやヒノキなど地元の木材を使った住まいを提供して18年。世代を超え長く愛着を持てる住宅が、持続可能な地域づくりを目指す鳥取に一軒ずつ溶け込む。
一貫して提案してきたのは、自然エネルギーと自然素材を利用した家づくり。太陽光で発電しながら同時に熱利用も行う「OMソーラー」を採用。ユニット1台で家全体の冷暖房に加え「お湯採り」「全熱交換換気」を実現している。また、自然素材の特徴を生かしたシンプルな意匠と高い断熱性・気密性など建物を支える構造材の性能の高さを両立させてきた。
CO2の排出ゼロを目指し、エネルギーの循環と自立ができる家でありながら、快適さも手放さない。毎日の暮らしそのものが省エネ活動になる住まいでの暮らしによって、自身を取り巻く環境問題への気づきや、次への行動変容につながればと考えている。
鳥取県生活協同組合
(鳥取市河原町布袋、井上約理事長)
SDGs行動宣言を推進
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鳥取県生協のエシカル商品の一部 |
2018年に策定した「コープSDGs行動宣言」を組合員と共に推進。日々の事業活動に伴う電気や車両燃料の使用量、ごみの排出量を計画的に削減しながら、CO2の排出や地球温暖化につながる環境負荷の低減に取り組む。
食品ロスの削減には、予備食材を生活困窮者やこども食堂など必要な人と施設に提供する事業を行政、地域の諸団体と連携して進める。
また、「誰かの笑顔につながるお買い物」(エシカル消費)を応援しており、環境に配慮した商品開発にも積極的。ごみになる紙芯を省いたトイレットペーパー「コアノンロール」は販売開始から約40年たった今も健在だ。対象のもずく商品代金の一部を積み立て、沖縄のサンゴ礁保全に寄付する活動にも力を入れる。
大下林業有限会社
(鳥取市岩坪、大下武夫社長)
持続可能な森林づくりを
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適切な管理で森林の環境保全 |
持続可能な森林づくりが人も環境も豊かに。適切な管理をすることで山は財産となり、土砂崩れなどの災害抑止にもつながる。
林業の大切な仕事は間伐と枝打ち。定期的に間引くことで樹木の生育を促し、まっすぐに伸びたよい材質の木が育つ。また、林床に十分な日光が届くことで木々はしっかりとした根を張る。その根っこは土地を強くし、雨水などを蓄え、土砂の流失を防ぐ「緑のダム」としての機能を持つ。
間伐した木材は形状や品質によって分類。家の構造などで使用する製材や集成材のほか、燃料用の「薪炭(しんたん)」やバイオマス発電のチップの材料として出荷する。
「杉やヒノキなどの植林が進み、人が手を加えた山は自然ではなく人工物。最後まで人が手入れをしていかないと」と話す大下社長。環境を保全し、大切なふるさとを守るための仕事をこれからも続けていく。