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vol.126環境保全型農業の実践 開かれた農業セクターの可能性
2019.4.25
化学肥料や化学合成農薬の使用を減らし、環境負荷の軽減に配慮した環境保全型農業は、地球温暖化防止対策に貢献する。今回は、同農業を実践し、エビスグサやエゴマの栽培を通して、地域の抱える課題解消と持続可能な社会の発展に向けた取り組み事例を紹介し、開かれた農業セクターの可能性を探る。
薬草の郷プロジェクト 県西部で広がるエビスグサ活用
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授業でエビスグサの収穫作業を行う彦名小の児童(昨年10月、同校校庭) |
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伯耆地区郵便局長会と地元住民で取り組んだエビスグサの播種作業(昨年4月、日野町菅福地区) |
エビスグサの栽培を通して、耕作放棄地の解消や新たな地域産品の創生、環境教育への活用など、地域の社会課題の解決に役立てるさまざまな取り組みが、鳥取県西部地域発で始まっている。
エビスグサは北米原産のマメ科の一年草で、種子は漢方の生薬ケツメイシ。それを焙煎(ばいせん)したものがハブ茶と呼ばれ、目や胃腸に良いとされる健康茶として愛飲されてきた。日本では江戸時代中期に渡来し栽培されてきたが、生産量は徐々に減少。現在国産品は絶滅の危機にあるという。
プロジェクト化
県西部地域での栽培は2015年、米子市彦名地区のエコ活動に取り組む「彦名地区チビッ子環境パトロール隊」(向井哲朗代表)の副代表を務める谷野彬成さん(77)が、同市内の古い商家の庭でわずかに自生していた同薬草の種を譲り受けたことに端を発する。希少価値が高く栽培が比較的容易であることから、16年、同隊の一事業として「薬草の郷プロジェクト」を立ち上げた。
地域課題解消へ
日野町は、中山間地域が抱える高齢化や遊休農地の問題を解消し新たな特産品ブランドを開発しようと、18年から同町菅福地区などで同薬草の栽培に取り組んでいる。伯耆地区郵便局長会と協定を結び、栽培時の人手不足を解消。19年3月1日から商品名「焙煎はぶ茶」として、町内限定で試験的に販売を始めた。
環境学習に活用
米子市立彦名小(神坂安喜代校長)は、4年生の「総合的な学習の時間」の授業で、校庭の一部を使い栽培を行っている。谷野さんが指導に当たり、播種から種子の収穫、焙煎まで生き物を慈しむ心と緑地を大事にする環境保全の心を養う。昨年度末には茎や根の部分を活性炭にし、水質浄化を行う取り組みも行った。同薬草の新たな活用法として注目される。
新産業の可能性
18年度は5市町で栽培が行われた。障害者の所得向上を目的に農福連携に取り組む任意団体もあるなど、独自の活動が広がっている。谷野さんは「エビスグサ栽培が鳥取県を元気にする新しい産業になれば」と期待を寄せている。
エゴマの有機栽培で持続可能な社会構築 あきんど太郎
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事業承継したアイ、ヒューマンネットとあきんど太郎の経営者ら(右から松井社長、岩下社長、岩下社長の妻・寿子さん)
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有機栽培されるエゴマ。夏ごろ青々とした葉を付ける |
2019年4月、12年間有機農業によるエゴマの栽培と加工食品化を手掛けてきた「アイ、ヒューマンネット」(鳥取市、岩下文広社長)が、八頭町の隼ラボに本社を置く地域商社「あきんど太郎」(松井太郎社長)に事業承継した。事業者の高齢化による後継者問題の解消や地球温暖化対策、雇用機会の創出といった持続可能な社会を構築する一例として注目される。
エゴマは6月に播種作業を行い、10月に種子を収穫するシソ科の一年草。αリノレン酸を多く含み、体脂肪を減らし動脈硬化や心筋梗塞を防ぐ効果があるといわれている。
今年3月末まで事業を展開してきたアイ、ヒューマンネットは07年設立。日本国内でも数少ないエゴマの有機栽培農法を取り入れ、10年に国の定める有機JAS認証を取得。同規格の厳格な基準に基づき栽培を行ってきた。油を種子から搾り出す製法も、昔ながらの低温圧搾製法(コールドプレス)にこだわり、手間をかけて一級品の商品を製造することにこだわってきた。
事業承継した松井社長(51)は「健康志向が高まる中、徹底した取り組みにオンリーワンの価値を感じた」と話す。前経営者が蓄えた豊富な知見を共有しながら、有機エゴマの高付加価値要素を訴え、販路拡大を目指すことを決めた。
18年にエゴマがマスメディアで大きく取り上げられたことから、注目されるようになった。同社にも消費者などから問い合わせが増えている。従来からエゴマ関連商品は、油とサプリメントのほか、みそや菓子、お茶などの販売を行ってきたが、事業承継を機会に新商品の開発も考案中だ。
松井社長は、同事業を若者や女性の雇用創出につなげたい考え。同氏が鳥取大のゼミで取り組みを紹介したところ、関心を示した学生がインターンシップで生産を手伝うようになった。松井社長は「環境に優れた有機農業は、鳥取に適した栽培方法。世代を超えて脈々と受け継がれていく事業となれば地域の未来は明るい。持続可能な社会の構築につなげていきたい」と話した。
気候変動時代を生きる
始動する若者の気候デモ
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ドイツ・フライブルク市のスクールストライキ |
資源の消費をもとに豊かさを手にした昭和。豊かさの格差が生まれ資源の限界や地球の脆弱(ぜいじゃく)性が表面化した平成。そして迎える令和の年に、気候変動に確かな対策を求める若者たちが世界100カ国以上で行動を始めました。それが「未来のための金曜日」などと呼ばれる、学校ではなく議会や役所に集まって大人や政策者に対し「未来を異常気象や食糧難から守るための対策を」と訴える気候デモ運動です。
たった一人で始めたスウェーデンの少女グレタ・トゥンベリさんの行動に共感した若者が「学生に未来を!」「気候対策に取り組まない大人が子どもに学校に行けというのはおかしい」「私たちの孫のことを考えて−」と世界中で叫んでいます。気候学者たちが今月、若者たちの行動に対し「正当である」と支持を表明しました。日本での運動は盛り上がっていないという評判ですが、関心を持って見れば、さまざまな動きに気付くはずです。
ちょうど5月に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の総会が、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3、京都会議)以来約20年ぶりに京都で行われ、6月には温暖化対策が主要なテーマとなる20カ国・地域(G20)首脳会合が大阪で開催されることもあり、関西の学生が中心になって社会の関心を喚起すべく始動しています。
気候と経済のしっかりとした調和が求められている今、ビューティフルハーモニーと訳された時代を生きる若者たちの未来が地球環境と美しい調和を奏でることができるのか否か、私たちは岐路に立っています。
(鳥取県地球温暖化防止活動推進センター・山本ルリコ)
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